零の旋律 | ナノ

Absolute kingZ


「……棟月、俺を殺せ」

 ウィクトルは敗北を認めた。名案だと思えてならなかった秘策も通じないとわかった今、足掻くことは無意味だと実感した。

「その命令を俺はレガリア様から受けていない」

 ウィクトルは棟月に殺されようと近づいたが、槍がウィクトルを捉えることはなかった。
 ――そうだ、こいつは命令がなければ何もしない。

「……何故、反逆者である俺をあんたは殺そうとしない」

 “あんた”と呼ぶのにウィクトルの複雑な心中が伺えた。反逆した身でレガリア様とは呼べないし呼びたくない。だからといってレガリアと呼び捨てにすることは恐れ多くて出来なかった。
 それは反逆したはずなのに――それでも異端審問官の呪縛から完全に逃れられていない証だった。

「反逆者か。お前はそう思っているのだろうが、私はお前がした行為を反逆だとはみなしていない。それだけだ」
「……懐が広いというか……いや、そうだよな。王様は臣下が一人抜けただけじゃ、動じないか」
「生憎、動じるという感情が私は理解が出来なくてな。その皮肉に応じてやることは出来ないよ。ただ、繰り返すようだが教えておこう。結果に至る過程は無数にあるが結果は変わらないよ」
「何だか一種の暗示みたいだな」
「暗示ではない事実だ」
「そっか」
「去るといい。この場に留まることは今のお前には無意味だろう」
「わかった」

 絶対の王が殺さないと言うのならば、ウィクトルは惨めに地面を這いつくばってでも生きようと思えた。
 織氷への感情――明確に表記するならば恋心を自覚したからといって後追い自殺をするつもりはない。
 かといって、死ぬ可能性があるとわかっていて――その結果織氷が死んでしまった以上、何も言わなかったレガリアを心から許すことは出来ない。それが、ただの身勝手な八つ当たりだったとしても、だ。

 ――俺は織氷が好きだったんだ。失ってから気がつくなんて、ただの馬鹿だ。

 織氷と触れ合うことが当たり前すぎて、それが普通だと思って、好きの感情を忘れていた。自覚すらなかった。
 失ってからウィクトルはそれが恋心だったと、二年越しにようやっと理解した。
 だから、レガリアの掌の上で踊り続けることになったとしても生きる道をウィクトルは選んだ。
 そうすることで、織氷を一生思い続けることが出来るから。



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