零の旋律 | ナノ

Absolute kingX


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 箱庭の街へ逃走してから数日後、ウィクトルはどうすれば絶対の王に勝てるか、幾度目かの思案をする。
 絶対の王の実力はケタ違いに高い。何より『言霊』を使用されればなすすべがない。だから、言霊を封じることが出来ないか必死に思案する。部屋で煮詰めて考えていても仕方ないと気分転換を兼ねて外に出る。
 外では子供たちが雪合戦をして遊んだ。マフラーを巻いて、耳あてに手袋をして寒さにやられないようにしている。楽しそうな笑い声が響く平和な光景だ。
 箱庭の街は、外の街より物騒ではあるが、子供たちの姿を見ていると、箱庭の街も何ら外と変わりないのではないか――そんな錯覚を抱きそうになる。箱庭の街が何故、外壁によって閉じ込められた閉鎖された街であるのか、ウィクトルはその所以を知らない。ただ、絶対の王が命じるままに行動をしていた。そんな自分を今さらながら恥じた。

「こらー! 待て待て!」
「あははっ当ててごらんよ!」

 暫く子供たちを眺めていたが雪合戦が終わることはなかった。無邪気な姿に――ウィクトルは閃いた。絶対の王の言霊を封じる手段を。

 万全の準備を期して、ウィクトルが再び異端審問官の組織を訪れた時、巨大に聳え立つ黒き拠点は、暗黒の城のように思えてならなかった。寒気がする。悪魔の城だってもう少しまともだろうとさえ、ウィクトルは思う。
 入口には誰もいなかった。通路を進んでも誰一人出会わない。これは絶対の王の采配なのだろう。全ては掌の上。それでもウィクトルは絶対の王へ挑む道を選んだ。
 過去の自分に決別しなければ、決着をつけなければ前へ進めない。
 絶対の王がいる間の扉を開くと、そこには影の如く棟月が玉座の右側にいた。
 棟月は武器を手放せない性質なため槍を所持しているが、ウィクトルへ向ける気配はなかった。しかし、ウィクトルの出で立ちを見て眉間にしわを寄せる。

「あはははっ、そうきたか」

 レガリアも笑った。その過程はレガリアによって予想外だったのだろう。レガリアは、結果は一つしか存在しないと断言するが、それに至る過程は無数にあると断言もしている。即ち、ウィクトルがこの場にその格好をして現れたことは結果へ至る過程のひとつだ。
 レガリアが口元に笑みを浮かべたのは僅かな視界から判断出来たが、何を言ったのかまでは全くウィクトルは聞こえなかった。それこそが『言霊』を攻略する唯一の方法だと思えてならない。ウィクトルは大剣を抜き、前回同様レガリアへ向けて走り出す。二年前、執行官であったユズリ=標葉には破れたが、その大剣捌きと素早さは伊達ではない。
 レガリアはゆったりと玉座から立ち上がった。ウィクトルは狭い視界の中でレガリアを確実に捉え、大剣を振りかざす。対象を貫くはずった大剣はしかし、金属音を奏でるだけだった。寸前で止められた。徒手空拳だったはずのレガリアの手にはレイピアが握られていた。細身のレイピアが大剣を押し返す。ウィクトルは危険だと判断し後退する。


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