零の旋律 | ナノ

Absolute kingW


「さて、棟月は“レオン”を殺したかったかい?」

 レガリアが不敵な笑みで、棟月へ問う。

「いいえ。貴方が逃がしたのでしたら、俺は別にかまいませんよ」

 もし、此処でレガリアが隠れて始末しろ、というのであれば棟月は一目散に駆け出しウィクトルを地の果てまで追いかけまわして始末しにいっただろう。だが、そうレガリアが命じない限り、棟月は何もしない。

「さて、棟月。夜中なのに呼び出して悪かったね」
「いいえ、問題ありません」
「棟月、寝るといい。私も寝る」
「はい」


+++
 ウィクトルが逃走をした先に選んだ場所は箱庭の街だった。
 絶対の王が存命する限り、“自由”が存在しない閉じ込められた小さな世界だ。
 逃走先に、箱庭の街を選ぶのは不思議だな、とウィクトルは雪を踏みしめながら思う。それと同時に、箱庭の街は何故、“箱庭”であるのだろうかと思う。箱庭の街は絶対の王が自由を認めない限り箱庭から脱却することはできない。何故、絶対の王は街が解放されることをよしとしないのだろうか、と。今まで異端審問官であり続けたときには疑問を抱かなかったのか、ウィクトルは自分に嫌悪する。
 箱庭の街の空は、外の街と変わりないのに隔てられた壁、崩壊した建物は修理されることなく放置されている、それらの違いが此処は閉じ込められた街なのだと実感させる。
 ウィクトルが箱庭の街を歩くと、人々が一気に道をあける。まるでVIP扱いでも受けているようだ。それほどまでに異端審問官は恐れられている。
 異端審問官の黒と青の服装を着替えないと周囲の反応は変わることがないな、と慣れ親しんだ服を見、適当な服屋に入った。途端店主の顔が青ざめた。

「いや、仕事は関係ない」

 思わずウィクトルは弁明をしてしまう――弁明する必要はないのに。
 これが今まで異端審問官として行ってきた行為の結果なのだ。
 ウィクトルは怯える店主を横目に、怱々に服を選び購入した。序にその場で着替えたいと申せば、間髪開けることなく許可が下りた。異端審問官に殺されないように必死なのだ。
 最初は店に数名の客がいたが、ウィクトルが姿を見せた瞬間消えてしまったので、店内は閑散としていた。ウィクトルが着替え終わり、購入した服を入れてもらっていた袋に異端審問官の服を入れる。
 服を買った以上、長居するのは居心地が悪いので、その場を後にする。適当な住居も必要だと判断し、どこかにないかと考えた結果、壊滅させた組織イーデムの中に住居を築くことにした。
 異端審問官との戦闘行為があった場所は怖くて不用意に近づく人間はいない。それゆえに、自分には最適な住居だと判断したのだ。血の跡が残っていない部屋をウィクトルは探し出し、寝転がった。


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