零の旋律 | ナノ

Absolute kingU


 深夜に武装して現れたウィクトルに対して、棟月は何も言わず絶対の王がいる扉を開けた。
 最初から現れることを予期していただろうことにも今さら驚きはしない。
 そうでなければ武装して現れたウィクトルに対して棟月の狂気が襲いかかってきたに違いない。襲ってこないということは予め言いつけられているからだ。
 ウィクトルは恐れを抱かないよう一歩一歩大理石の床を踏みしめる。ウィクトルが顔をあげると玉座に威風堂々と座るレガリアの姿が視界に入る。
 圧倒的な存在感、他者を従えることが“当たり前”であり続けた者の姿がそこにはある。

「わかっていたが一応問おう。ウィクトル、その剣で私を殺すつもりかい?」

 ウィクトルは無言のまま大剣を抜き駆け抜ける。棟月は眉ひとつ動かさない。忠誠心深い棟月は絶対の王に心酔しているがゆえに、心配は皆無だった。

「ウィクトル。私には触れられないよ」

 大剣を振い、絶対の王レガリアに反逆しようとしたとき、世界が反転した。否、身体が地面に倒れていた。無様に。まっすぐに駆け出した先の重力が突如変化し、逆らえなかったかのように倒れた。
 何が起きたか理解出来ない。絶対の王は何もしていない。指ひとつ動かしていない。玉座に座り頬杖をついているだけだ。

「一体何が……」

 知っている。否、こんなものは知らない。
 ウィクトルの思考が目まぐるしく動くが、それでも追いつかない。

「言ったはずだ、『私には触れられないよ』と」

 発せられる言葉だけで思わず頭を垂れそうになる。だが――ウィクトルはそれでは何の意味がないと立ち上がる。

「……俺があんたに矛を向けていることを何も思わないんだな」

 言葉をついて出てきたのは、寂しさだった。所詮、自分たち異端審問官は盤上の駒でしかないのだと実感させられてしまう。
 少しでもいい。表情を変化させてくれたなら、絶対の王への思いが揺らいだかもしれないのに。
 絶対の王の表情は何一つ変わっていない。ただ、全てを知っているかの如き表情だ。

「こうなることは十分に予想できていたよ。そうなるとわかっていることに対して表情を変化させることができるほどに、私は感性豊かではないからな」
「そうかよ! ならやっぱり織氷が死ぬ可能性を予想出来ていたんだろ!?」
「……あぁ、そうだよ」
「いや、もっと具体的に言えば俺と織氷両方が死ぬ可能性も予想出来ていた。相手は執行官と実験体だったから――けど、両方を殺せるという結果だけがわかっていたんだ、だからあんたは……」
「そうだ、例え過程はちがえど結果は何も変わらないよ」

 残酷に突き刺さる言葉。だが、それが事実だと否応なく実感出来る。
 彼が発する言葉何時だって“正しい”そこに嘘や偽りは存在しない。だからこそ――残酷なのだ。

「……そうかよ!」

 矛を向け走り出そうとした途端、再び世界が反転した。地面にひれ伏す形となり滔々状況を理解出来た。
 これをウィクトルは“知っている”ただ、それが何であるかが不明なだけだ。
 けれど――理解ができない。

「これは……異能なのか」
「ご名答」
「何故だ? 異能をあんたが持っているなんてありえないだろう!」

 ウィクトルは叫ぶ。信じられなかった。理解しているのに否定する。相反する感情。
 何故ならば彼は絶対の王だ。絶対の王であるレガリアが実験体であるはずがない――そんな思いがウィクトルの中にはあるからだ、それこそ絶対的に。

「あぁ、お前は私が異能を持っていることが不思議なのか? 誤解がないように教えておこう、私は実験体などではない」

 レガリアはあくまで事実を説明する作業のように淡々と答える。

「なら、その異能はなんだ! 異能ってのは実験体の持ちえる異形の力じゃないのか!?」
「正しくは違うよ。私の異能は、この世界に“三種”のみ存在する原初の異能だ」

 理解できる範疇を凌駕する。原初の異能とはなんだ。異能とは実験体の――研究の塔の実験によって生み出された人ならざる力ではないのか。混乱で言葉が紡げない。

「違うよ」

 ウィクトルの思考を正確に読み取ったかのごとくレガリアは否定する。


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