零の旋律 | ナノ

Absolute king


 ホワイトクリスマス――血濡れたクリスマスから数日たったあと、フォルトゥーナを他の異端審問官の前に新たしい仲間だと紹介された。
 レガリアの代弁を務める棟月が紹介すれば誰も疑わない。ましてや彼女が元異端者だった可能性なんて思い浮かびもしない。
 此処はそういう場所だ。
 絶対の王の言葉に疑惑を持つなど言語道断、それ以前にそう思うことはない。異質な空間で、異質であることを理解しない集団、それが異端審問官――


 フォルトゥーナが仲間に加わった日の深夜。
 ウィクトルは自室で窓の外の景色を眺める。降り積もり雪はやまない。手を伸ばせば、雪が体温で溶ける。しかし、それが数度繰り返されると、雪は掌の上で溶けずに積もっていく。

「寒いよ、ウィクトル」
「悪い」

 寒い、と同室のアミークスに言われ、ウィクトルは窓を閉める。此処連日は記録的な積雪だった。週間天気予報が流れると、表示される天気は全て雪マークだった。清々しい程に雪ばかりで、思わず笑ってしまったのが記憶に新しい。
 雪が積もりに積もるものだから、異端審問官の組織も此処数日はグループに分けて雪かきをしていた。
 雪かきをしても次から次へと積もっていく雪。
 白銀の世界は美しいはずなのに、心だけが冷えていく。

「あー」
「どうしたんだい」

 アミークスはベッドで横になりながら本を読んでいた。
 基本的に異端審問官の部屋は相室で相棒と一緒にいるのが普通だ。
 但し、相手が異性の場合は性別が違うことを考慮して別々の部屋になることも出来る。しかしウィクトルとアミークスは同室だった。
 別々の部屋にすることをウィクトルは考えもしなかったし、アミークスは何かあった時に不便だし別に構いやしないよと大雑把な考えだった。此処は恋愛をする場ではないのだから、性別にはこだわらない、そう言った異端審問官は結構いる。何より同室とは言え、各々のプライバシーは考慮された部屋の作りになっている。
 アミークスとは結構な付き合いだ。現在の相棒関係になる前から会話をする仲だった。そう、ふと思った時歯車が動き出す音が、確かにウィクトルの脳内に響いた。

「……なぁ。アミーっていつから異端審問官やってたっけ?」
「私かい? 私は十二の時には異端審問官やっていたからそうだな……十年やっているよ」
「十年か……だよなぁ」
「どうした?」
「いや、何でもない」
「……ウィクトルがどんなことで感傷に浸っていようと構わないよ。けれど、仕事にだけは支障をきたさないでくれよ」
「あぁ、わかっているよ。お休み」
「お休み」

 アミークスが本をウィクトルへ投げ、布団をかけて寝る体制に入ると、数秒もたたないうちに寝息が聞こえてきた。受け取った本を見るとアミークスが好む推理小説だった。

「(……俺もアミーと大差ないくらい異端審問官をやっている。だったら、何故『絶対の王』は昔と容姿が何一つ変わっていないんだ)」

 それは誰も疑問に思わないが明らかに“おかしいこと”だ。
 すでに十年、絶対の王はその容貌が変わっていない。絶対の王レガリアの外見年齢は十代後半。外見と実年齢が一緒ならば十年前は十代ですらないということになる。
 それはあり得ない――。異能を有する実験体でもないのに、外見が変化しない、なんてことは異常だ。
 その疑問にたどり着いてしまえば、おぞましい。
 背筋が凍りそうになる。
 窓を閉め忘れたか、と慌てて背後を振り返れば窓は閉まっている。

「……」

 ウィクトルは睡眠中の相棒に気がつかれないよう静かに、武装してから廊下を出た。

「……馬鹿な子」

 アミークスはウィクトルがいなくなった後静かに目を開き呟いた。


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