Future possibilitiesX +++ 彼らの命を賭した願いが成就することはなく、ただ血塗れた結末を迎えた。 異端者組織イーデムは異端審問官の手によって跡形もなく破壊された。 生き残りも許さない徹底的な破壊――蹂躙だ。 しかし、異端審問官は知らない。ただ一人生き残りがいることを。『可能性の未来』の異能を扱う少女が組織イーデムにおいて重要視されていた存在だと言うことを知らない。 そして、異端審問官が知るのは少女――フォルトゥーナが新しく異端審問官の仲間入りをしたことだけだ。 全ての事実を知っているのは絶対の王であるレガリアと、影のように付き添う棟月だけだ。 「……私は貴方達の敵対組織にいた人間よ? いいの」 フォルトゥーナは心の中で愚問だ、と思いつつも何も言わない棟月に質問をした。棟月はその端正な表情をかえることなく答える。 「レガリア様がいいのならば、俺が意見するところではありませんよ」 「……レガリア様、関係なしに答えて欲しいのだけれど」 「レガリア様がいいと言ったことに対して、俺が不満や不服を持つわけないじゃないか、だから結局同じですよ」 「……納得できない」 唯一真実を知らされているというのにフォルトゥーナに対する態度が何処までも淡々としていて、納得が出来なかった。 「そこでむくれていても結果は変わらない」 「わかっているけど……組織を裏切った私が言える口じゃないけどさ、貴方って、此処にいる人間の誰より――レガリア様を除いてだけど異常だよね」 絶対の王レガリアに“様”付けをするのにフォルトゥーナは全くの違和感を抱かなかった。尤もレガリアが様付けを推奨しているわけではない。呼び捨てで構わないとレガリアは全ての異端審問官に公言している。ただ、誰ひとりとして呼び捨てにしないだけだ。 「でしょうね」 「わかっていたんだ」 「そんなこと、一体何回言われてきたと思っているんです? 外の人間に異端者に、箱庭の街に。今さら過ぎる。そして俺はそれでいい。レガリア様だけがいてくれるなら、俺は異常だろうがなんだろうが構わない」 「あっそ」 フォルトゥーナは棟月に質問をすることを止めてその場で着替え始めた。もとから来ていた服装をイメージして造られたストライップの入った青いシャツに黒の服装へ。 「……せめて部屋で着替えてきたらどうです? 俺しかいないとはいえ」 「ん? 何か問題ある? そういえば組織の皆も言っていたけど」 「……まぁ好きにすればいいですよ」 元実験体であるフォルトゥーナにとって世間一般の“常識”は少々ずれていた。だから男性がいる前でも平然と着替えるし、それがおかしいことだとは思わない。 それを訂正しなくても害はないと棟月は判断した。 「はーい。そうする」 棟月は眼前で着替えるフォルトゥーナに特に興味を抱かずに書類整理を始める。ふくよかな胸が目に入っても、棟月の眉が動くことはなかった。 [*前] | [次#] TOP |