零の旋律 | ナノ

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 黙々と食事を頬張るクロアの姿はリスのようで可愛らしい。

「ん? どうしたんだい。僕を見て。標葉は食べないのかい?」
「いいや、頂きます」

 クロアと標葉が食べ終わってから、標葉は後片付けをする間、クロアは画面の向こうに流れる物語を楽しそうに見ていた。

「あははっ、彼らはどうしてピンチにならないと助けに来ないのだい?」

 テレビから流れる音声とクロアの問いかけに標葉は洗い物をしながら答える。

「それが一番盛り上がるからだろ」
「しかし、こうもピンチになって助けに来るなんて、ワンパターンですぐに飽きてしまうだろう。ご都合主義という奴だっけか?」
「それを言っちゃだめだ。それはそういう話なんだから」
「まぁ、僕としては滑稽で面白いからいいのだけれどもね」
「お前のために番組が流れているわけではないからな」
「わかっていますよーだ」

 標葉が洗い物を終え、エプロンをかけてから飲み物を用意してクロアに手渡す。中身はアイスティーだ。

「有難う、流石僕の標葉だ」
「いつから俺はお前のものになった」
「僕と出会った時からだ」
「横暴だ。さて、今日は何処へ行く?」
「買い物がいいな。髪留めがみたい」
「了解、お姫様」

 そう言って標葉は優美な動きで手を差し伸べると、クロアは嬉しそうに手に捕まって立ち上がった。ふわりとしたスカートが揺れる。
 クロアは塔へ復讐することを目的にしているが、それ以外にもやってみたいことがあった。普通の少女として日常を楽しむことだ。だから、復讐に移す前に、一通り遊んでみたかった――年相応の遊びを知りたかった。
 標葉は快く同意した。標葉とて遊びを知り尽くしているわけではない、それでも可能な限り知恵を絞ってクロアと遊んだ。
 時々、執行官に見つかることもあったが、クロアがその異形な力を持って全て殺した。標葉の刀は腰から抜かれることはなかった。
 無情に執行官を殺した時に垣間見る可憐な容姿とは裏腹に残酷な表情仕草をするクロアに標葉は人知れずため息をつく。
 純粋無垢で残酷、冷酷無慈悲、無邪気な少女。それがクロア・レディットだ。
 二面性を持つ少女の心は既に壊れているし、歪んでいる。だが、それを問題だと少女に責任を追及することは出来ないだろう。それを問題だとやり玉にあげるのであれば、その原因を作り上げたのは十中八九、塔の研究者だ。実験体として彼女に様々な行為を行ってきた彼らにこそ原因がある、標葉はそう確信している。


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