零の旋律 | ナノ

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「さて、では外に行こうか。僕は余り道を知らない、此処は君を迎えに行く前に偶々見つけたから知っていただけだ。案内してくれるかな?」
「あぁ、勿論だ」

 標葉は長さの違う二刀の刀のうち一刀を右手に握り、残りは袋に入れたまま左手に持つ。
 標葉が先に歩み始め、その隣を少女が悠然と歩く。足取りに迷いはない。
 頑丈な警備、扉、システム、それらが管理する研究者たちのプログラムが遂行される塔は今、たった一人の少女によって蹂躙され、さらに少女は刀の力を手に入れた。
 少女が手を下すまでもなく、刀を取り戻した標葉が向かってくる兵士を一刀両断する。鮮やかな手際は酔いしれる程だ。
 血が舞う、血が踊る。死の行進曲だ。

「あは、流石だね。流石僕らを殺すための執行官だ」

 少女は称賛する。やはりこの男に目を付けたのは間違いではなかった。

「厭味か? それは」
「勿論褒め言葉さ。君たち執行官は僕ら実験体を殺すための存在だ、尤も僕についた時点で本末転倒だろうけどね。力を持たす相手を彼らは間違えただけさ」

 少女は高揚した気分だった。長年望んだ実験体から解放される時を――待ち望んでいた。
 徐々に出口へ向かって階段を下って行く。凄惨なる場を少女と男が歩く度に作り出していく。透明な硝子で覆われたロビー。尤も外から中の様子を伺い知ることは叶わない。此処を脱出すれば――塔から逃げることが出来る。少女は僅かに油断していた。男も油断していた。もう敵はいないと――男が反応する。第六感が、視界に敵を納める前に逃げろと告げる。男は少女を庇うようにして倒れる。

「何?」

 少女が顔を上げようとするが、それを標葉は手で押さえると同時に右手の刀を握って起き上がる。

「はふ」

 途端少女の周りを風が切る。刃と刃がぶつかる音。カツン、カツンとヒールが木霊する音が少女の耳に届く。
 少女は自分の周りを結晶化し、防衛に回して起き上がる。
 途端、目の前で広がるのは斬撃の残像。人が動いているのに、それを目では追えないほどに素早い動き。
 標葉が後退し、少女を守るように守護者となる。

「流石、実験体を殺すための執行官だっただけのことはあるなぁ。尤も執行官が実験体を守るなんて、反逆もいい所だ」

 残像は実態を持つ。否、最初からそれは実態だ。ただ、人間の限界速度を突破しているかのような動きによって残像が実体化したように映ったに過ぎない。


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