零の旋律 | ナノ

ENDfateU


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 コンクリートが砕ける。衝撃、骨が折れる。激痛がはしり動けない。意識が混濁とする。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 標葉は壁に飛ばした相手が生きているのかも確認せず、傷だらけで今にも出血多量で死にそうな身体を無理矢理動かして階段を上がる。
 バラバラと降り注ぐ。結晶の欠片が六華となる。

「クロア……」

 急がなければ。結晶に変貌して逝く建物を懸命に登る。そうして最上階へ標葉は辿り着いた。そこに広がる幻想的な世界。夢幻の世界が広がる。

「クロア!」

 朦朧とする意識の中で、結晶に包まれつつありながらも美しい、否だからこそ儚き華のごとく美しさを誇るクロアがひと際輝いていた。
 クロアだけは結晶の世界で唯一認識出来た。
 痛みは痛覚が麻痺したのか殆どない。標葉は駆けだす。血が溢れるのは既に覚えてすらいない。怪我をしていることすら忘却した。

「クロア……!」

 クロアの名前を呼び、優しく抱きしめる。
 最早クロアの心音は聞こえてこない。温かい温もりはない。自然と零れる涙。

「復讐は、果たせたんだな」

 満面の喜びと慟哭の悲しみを伝える笑みと涙。標葉は冷たくなったクロアへ温もりを分け与えるように抱きしめ続けた。
 突如、標葉を襲う衝撃。クロアの身体に寄り添うように倒れる。そして浸食を続けていた結晶は標葉もろとも飲み込み、瞬く間に結晶化する。
 パキリ、ハラリ、ヒラリと結晶の破片が舞う世界の中で、最上階にただ一人、生きている人物がいた。
 リボルバーを――灰色の氷の女が使っていたリボルバーを発砲したのは、彼女の相棒であり異端審問官の男だ。

「止めを刺さずに行くからさ……まぁ、そんな時間なかったんだろうけど」

 異端審問官は全身傷だらけで生きているのが不思議なほど大怪我を負っていた。それでも異端審問官は生きていた。
 そして――止めを刺しに来た。
 絶対の王は間違わない。全て正しい。

「そう、あの人は正しい。実験体と執行官を――」

 全てを言い終わる前に、異端審問官は意識を失って倒れた。



『実験体と、執行官の存在を抹消しろ』

 そう告げた絶対の王の命令は見事に完遂された。
 そして――クロア=レディット。少女の復讐劇もまた達成されたのだ。
 その命と引き換えに。


END

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