零の旋律 | ナノ

RevengeX


 クロアは異能の能力に頼り切った戦法を得意としている。だから、間に入られると弱いのだ。クロアは結晶の階段を作り宙へ逃げる。
 織氷の氷を纏った銃弾が結晶を砕く。
 クロアの異能が“結晶”であるのなら、織氷の異能はその名が示すように“氷”だ。
 だが、織氷の異能は弱い。だからクロアはせいぜい銃弾に氷を纏わせて銃弾の威力を底上げする程度しか叶わないだろうと見ていた。そしてそれは事実だった。

「全く、君たちは一癖も二癖もある!」

 クロアが宙で巨大な結晶の氷柱を作り出し、織氷へ向けて投擲する。織氷は素早く回避をする。対象を失った結晶の氷柱は地面へ激突して、耳をふさぐほどの轟音を鳴らす。
 織氷は身軽な動作で次から次へと振り続く結晶の氷を回避する。

「本当にしぶとい子!」

 ――あぁ、このままじゃ。ならいっそ
 覚悟を決めるのは一瞬。織氷の纏う冷気が増大した。

「なっ――どういうことだ!」

 クロアの驚愕は尤もなものだ。
 何せ織氷はプロトタイプだ。プロトタイプがあそこまでの異能を扱うことは不可能。
氷が周囲を浸食して冷気の世界を作り上げていく。
 結晶と氷が織りなす酷く神秘的で残酷な死の世界。

「知らないの? 知っているでしょう。異能は使えば使うほど命を削るってことくらい。私たちプロトタイプだってね、命を使えばこの程度のことくらい出来るのよ!」

 織氷の身体を流れる血が凍る。冷たい。極寒の地に舞い降りる輝く氷。

「貴方だって異能を使いすぎてもう長くないのでしょう?」
「さぁ、どうだろうね」

 クロアは笑う。

「でも」

 クロアは告げる。

「そんなことは問うに知っている! 君に言われるまでもない!」

 だからこそ、復讐をするのだ。復讐を選んだ。
 他の全ての選択を止めて、『復讐』に命をかけたのだ。
 パキリ、命が縮む音がする。氷の世界に吹雪く風でクロアの右袖が靡く。

「だから僕は復讐をするだけだ! 此処を壊すだけだ!」

 高らかに宣言する。強い意思によって決められた決意は誰にも覆すことは叶わない。
 織氷の灰色の髪が凍って行く。氷が織氷の身体を支配し始める。

「そう、なら貴方は死ぬだけ、殺されるだけ。私たち異端審問官がいる限り、そうなる」

 織氷の水色の瞳が氷と交わり幻想的な色合いを生み出すが、それでも織氷の決意は覆らない。
 ――そう、我らが王は常に正しい。彼が言った言葉が現実にならないことはない。
 織氷は高らかに笑う。氷の世界を木霊させる歌姫の唄。

「僕は――」
「私は――」

 全力が激突する。全ての思いを乗せて、氷と結晶が衝突する。しのぎを削る。
 パキリと砕ける音がする。結晶が破壊する。氷が拡散する。霧散する、蒸発する、消える。失う。
 無となる――そうして、世界は透明と青が交互に映し出す中で、終わりを迎える。

「ははははははっ、ほら、言ったはずだ。僕は復讐するだけだと」

 クロアは満身創痍に近い程の傷を負いながらも生きていた。倒れ伏す織氷が動き出す様子はない――腹部に突き刺さった結晶が命を奪っていることくらい、数多の命を奪ってきたクロアには一目瞭然だった。
 クロアは血を滴らせる右足を引きずりながら懸命に最後の階段を上って行く。

「待っていろ、僕の復讐はもうすぐ成し遂げられる。誰にも邪魔はさせない!」


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