零の旋律 | ナノ

RevengeW


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 結晶が花開き空高く舞う。響く音は音速の世界で風を切る。
 結晶と銃弾が舞う。距離と距離の攻防。結晶と銃弾が激突して切ない旋律を奏でる。
 クロアは頬から流れる血を舌でなめとる。真っ赤な鉄の味。苦いが甘美にも感じられた。
 クロアの結晶が織氷の足首に突き刺さる。織氷は手で結晶を抜き地面へ投げ捨てる。カランコロンと音が鳴る。
 織氷は中々致命傷を与えられないクロアへ苛立ちが募る。

「全く、しぶといのだから。さっさとくたばればいいものを」
「そりゃ、僕が実験体だからさ、生への欲望は有り余ってあるよ!」

 生への渇望。生への執着。生への欲望がある限り、実験体であり続けながらも死を求めたことは一瞬たりともない。

「本当に愚かしい馬鹿な実験体よね。脱走? そんな馬鹿らしい計画を立てるなんて」
「馬鹿らしい? 僕にとっては充分に確実性があったさ!」
「えぇ……そうでしょうね。貴方は実験体の中でも優れた異能を有する実験体だった。だからこそ、脱走を計画し、成功したのでしょうね」
「あぁ、そういうことだ」
「本当に――忌々しい」

 織氷はそう断言するとともに発砲する。銃弾は結晶の壁に阻まれて到達しないはずだった。しかし、それは結晶を砕き、クロアの腹部に着弾する。

「がっ――」

 なんで、クロアの瞳は驚愕に見開かれていた。銃弾は酷く冷たい。酷く冷気を纏っていた――それは異能。

「どういうことだ!」

 クロアは後退しながら叫ぶ。

「僕の結晶を砕いた、銃弾は氷を纏っていた! 氷を生み出すなんてそれは“人間”が出来る芸当じゃない!」
「『プロトタイプ』ってご存知かしら?」

 心なし、織氷から冷気が溢れているような気がする。

「『プロトタイプ』……確か僕たちのような異能を作り出す最初の実験段階の研究だったとは聞いたことがあるが」
「そう正解。貴方達を完成させるための試作品。それが私よ。正確には私の他にもいたけれど、今は恐らく廃棄処分にでもされたでしょうね。もう試作品は必要ないから」

 何処となく寂しげに、プロトタイプは告げる。
 一歩一歩クロアへの距離を縮める。

「僕たちが出来上がったからか? ならば何故君は生きている、廃棄処分されるのが普通なのだろう?」
「それは簡単よ。貴方とは違うけれど、私も塔から脱出したのよ。……私は利口な試作品を演じた、死にたくなかったし、それに“自由”が欲しかった。利口な試作品として馬鹿な研究者どもに取り入った。そうして私は堂々と入口から研究の塔から出たわ。その後は“あの人”と出会い、“あの人”のために刃を振るうと誓い、異端審問官の道を選んだわ」
「大層、異端審問官の王を心酔しているのだね、正直気味が悪いよ」
「あの人を悪く言わないでもらえるかしら? 私たちにとって絶対の王が全てなのだから。……話がずれたわね。いくら“異能”を有するからといっても所詮試作品は試作品でしかないから、貴方達実験体とは能力も違うわ――貴方達と比べれば著しく劣化したものよ」
「そうか、君がプロトタイプだったことは理解した。だが、そうなると疑問だ、君は何故僕と同じくらいの年齢なのだ? 僕が実験体として異能を開花させる前に試作品の実験は終了していたはずだろう?」
「答えは簡単よ。プロトタイプの――異能の副作用とでもいうべきかしら? 途中で成長が止まってしまったのよ。だから私の外見は変わらない。さて、お喋りは終わりね。私は貴方への質問に答えた。これで私たちは質問をし終えたのよ。後は相手を甚振り殺すだけ。骨の髄まで吸い尽くしてね」

 織氷がそう宣言すると同時に駆ける。クロアにとって厄介だったのは、織氷が体術も出来るということだ。加えて能力的にはクロアに及ばないものの織氷も“異能”を有することだ。


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