零の旋律 | ナノ

RevengeV


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 刃と刃がぶつかる重圧な旋律が奏でられる。姿は見えないほどに素早い。
 ただ、時折聞こえる斬撃と衝撃からくる破壊音だけがそこで誰かが戦っているかを証明する。
 二人が距離を置く。額を伝う汗。一瞬の隙も見逃せない。刹那のやりとりが致命傷となる。

「流石、gT執行官ユズリ=標葉だな」
「お褒めのお言葉光栄だな。それにしても異端審問官は皆お前みたいに強いのか? 奢っているわけじゃないが、俺と同等の力を持っているなんて予想外だった」

 双方未だ無傷。

「それはないだろう。俺だって異端審問官の中じゃかなり強い方何だ。これでも王からの信頼はある方だと思っている」
「絶対の王か」
「そうだ、絶対の王が殺せといった。俺たちにそれを命令してきたということは、俺たちはそれが達成出来るに他ならない。あの人が間違うことはない。あの人は正しいのだから」

 盲目的な崇拝、疑うことを知らない絶対的忠誠心。
 標葉は正直寒気がした。是が噂にしか聞かない異端審問官なのだ。
 標葉は異端審問官についてそこまでの知識がない。知識があれば、最初二人の姿を目撃した時に一目でわかったはずなのだ。異端審問官は青のストライップの入ったシャツに、黒のスカーフをトレードマークとしているのだから。
 標葉は刀を構え直す。一瞬たりとも気が抜けない。異端審問官と会話をすることで緊張を標葉は高めた。
 足を一歩踏み出す。滑らすような足の動き――見逃さないように凝視していただけなのに、次の瞬間その姿は見えない。消える。
 しかしウィクトルはそれを視界ではなく、気配で捉える。
 ――そこだ、
 ウィクトルが大剣を向けた先に標葉は姿を現す。しかし標葉の方が一瞬早い。標葉の右手に構えた刃がウィクトルの肩を掠める。
 ウィクトルは後退する。追い打ちをかけるように標葉の斬撃が迫る。
 ウィクトルは地面へ身体を逃がして、左手だけで倒立する形をとり素早く体制を整え直す。
 一進一退の攻防が続く。ウィクトルは大剣を、重さを感じさせない軽やかな手さばきで持ち手を変えながら変則的な攻撃を繰り出す。それが標葉の太股を切り裂く。血が滴る。
 標葉の刃が無数の切り傷をウィクトルに作る。痛みで顔を顰めることはない。それだけで隙が生じるのだ。


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