零の旋律 | ナノ

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「僕と一緒に逃げないかい?」

 爆音、悲鳴、結晶、破片、瓦礫、殺戮、破壊、死、鮮血、様々なものが入り乱れ、そしてかき消されていく空間の中で悠然と佇む少女はそういった。
 そう言って手を差し伸ばした――鎖に捕らわれた男に向かって。

「君の強さは知っている。協力してくれるなら、此処で僕と一緒に脱出しよう」
「……」

 男は答えられない。少女の企みは一体何か現時点で不明瞭だ。

「答えは二択だ、僕と一緒に逃亡するかしないか」

 しかし、と男は思う。どの道変わらない。
 そして男は思う。何故自分が此処に投獄されているかをその理由を。
 ――俺は、
 男は少女へ手を伸ばしたが、鎖が邪魔をして掴めない。金属のすれ違う音を鳴らす。
 そうだ、それで正解だと言わんばかりに少女は不敵に微笑んだ。
 少女が艶やかに指先を伸ばすと鎖は結晶へ代わり砕け散った。頑丈な人を捕えるための鎖など、少女の異能の前で無意味。

「じゃあ、行こう」

 今度こそ男は少女の手を掴んだ。
 少女は歳不相応の妖艶な仕草で男を歓迎した。
 少女の金髪が翻る。銃弾が壁を貫く。男はそれを冷静な視線で見ていた。武装した兵士が次から次へと現れる。少女は男へ背を向ける。

「全く、無粋だね。それと――力量不足だ、そこまで人が足りないのかい?」

 少女は嘲る。残酷で無慈悲な――子供の笑みだ。
 少女が指先を伸ばすと、途端溢れる結晶の欠片。それらが無数の刃となり、兵士を襲う。防護服など何の意味もなさない。必要もない。少女が操る結晶にとってそんなものは紙切れ同然だ。
 血飛沫が舞い上がる。少女の鮮やかな金髪に赤が飛び散る。

「まぁまぁ綺麗じゃないかな? 君たちの散り際は」

 少女は淡々と血の海へ歩を進める。男もそれに続く。靴が赤く染まる。

「標葉、君の武器は何処だい? 取りに行こう。適当に奪っても構わないが、やはり――愛用した武器の方がいいだろう?」
「あぁ、勿論だ」

 標葉と呼ばれた男は頷く。

「じゃあ行こう」

 少女の足取りに迷いはない。程なくして標葉の武器が保管されている場所に辿り着く。道中は既に殺した後が続いていた。
 標葉はそれを眉を細めるでも同情するでも嫌悪するわけでもなく――気にしない。
標葉は投獄されてからも処分されることのなかった相棒を手に取る。
 袋に入ったそれは触るのは久方ぶりだからか、自分の失っていた半身が戻ったような錯覚に陥る。


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