零の旋律 | ナノ

X:RevengeT


 歪んだ箱庭の中で少女は足掻く。破壊するために少女はもがく。
 黒のスカートを翻し、艶めかしい足を黒のニーソックスで覆いながらも、そのラインは妖艶に晒し、艶やかな金の髪が風で靡く度に、少女が輝くような錯覚を演出する。
 少女が掌を動かすたびに、少女の意思に応じて動く、結晶は光を反射し、七色の輝きを生み出す。
 少女が一歩踏み出す度に、大地は赤へ変色する。そして突き刺さる結晶の破片は緋色を映し出す。
 青年は屍の上を歩く。銀の刃が反射するたびに飛沫を上げる赤に滴る。
 黒のコートが翻る。黒のブーツが踏みしめる度に大地の骨が軋む。両手が交差する、空を舞うのは赤い雫。雨が降り注ぐ。
 青年と少女が奏でる旋律は死への階段。
 少女の狂気が復讐の色を彩る。

 少女と青年が歩みを止める。眼前に広がるは倒すべき敵――難敵だ。

「異端審問官、君たちはつくづく僕たちの邪魔をするのが好きなようだな」

 クロアが凄惨に笑う。赤の映える姿で、妖艶さを醸し出す。一輪の花が開花したような美しさが漂う。
 クロアと標葉の前に立つのは異端審問官ウィクトルと、そしてその隣に並ぶ灰色の少女――織氷だ。腕を組み待ち構えていたのはターゲットが自分たちであることを明確に告げている。

「今度は正式な依頼だ。お手伝いじゃない以上、お前を見逃すこともない」

 ウィクトルがクロアに告げる。あの時クロアを殺さなかったのは単に“お手伝い”であり、絶対の王からの命令ではなかったからだ。背中にある鋸の刃がついた大剣を片手で軽々とウィクトルは抜き、前に掲げる。

「お前らは異端審問官ウィクトルと」
「異端審問官織氷が抹殺するわ」

 高々と宣言する。

「させない。俺はクロアの復讐を達成するために、死の淵まで付き合うと決めたんだ」

 両手に持つ刀をウィクトルへ向ける。銀に輝く刃は数多の血を啜りながらも尚も美しい。

「クロア先に行け」

 標葉は耳打ちをする。クロアは妖艶な微笑みで頷いた。歳不相応にして年相応の微笑み。
 クロアは前方にウィクトルと織氷がいるにも関わらず一切の迷いなく足を踏み出した。

「行かせるか!」

 ウィクトルがクロアの眼前に立つと、その背後に標葉が回り込む。振るわれる洗練された刀の舞。ウィクトルは咄嗟に大剣の位置を変えて背中を守る。標葉はすぐさま回転してその場を離れる。宙を飛び交った弾丸。叩き殺す勢いで大剣が振り回される。それを標葉は軽やかな足取りで交わす。クロアが進む先に障害がある――異端審問官織氷が両手にリボルバーを構えている。クロアへ向けて放たれる銃弾を標葉は前に立ち、刀を盾とし銃弾を弾き飛ばす。クロアの前に障害物は存在しない。障害は全て標葉が取り除く。
 クロアは結晶を使い宙へ舞う、そして硝子の階段へ華麗に着地し、上階へ駆けあがる。

「織氷!」

 ウィクトルが叫ぶまでもない。織氷は後を追うべく、階段への一歩を踏み出そうとしていた。

「行かせるか――!」
「させるかよ」

 織氷へ刃を振るおうとした標葉を今度はウィクトルの刃が盾となり織氷を守る。

「任せたわよ」

 織氷の言葉に、ウィクトルは力強い背中で応じた。


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