零の旋律 | ナノ

PurposeW


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「マフラー外したらどうだ」
「嫌だ、是は標葉からの贈り物だもん。僕は大切にする」

 顔を沈めてその温もりを確かめているのだろう。顔を上げたクロアの表情は綻んでいた。

「標葉――明日、僕は復讐をする」
「明日? 急すぎないか? お前の怪我は明日明後日で動いていいようなものじゃないんだぞ?」

 ――それだと駄目なんだ。
 クロアは心中で呟く。

「急ぎ過ぎてなんてないよ。一か月、僕は日常を体験出来て楽しかった。もう十分だ。それにね、標葉。僕は片腕を失った今だからこそ動くんだ。流石に今日は無理だったけどね」
「……そうか」
「そう、僕は復讐をするんだ」
「塔を壊してどうする? メリーゼのやりたかったこともやるのか?」
「いいや、やらないよ」

 メリーゼの目的、それは箱庭の街を解放すること。

「どうしてだ?」
「それはメリーゼの目的であり、“メリーゼ達”の正義だ。僕がやることはただの復讐だ。メリーゼ達の目的にまで僕は介入しない。僕が塔を壊したことでメリーゼ達の目的が達成しやすくなるのは問題ないだろう、けれど、僕はそれ以上のことはしない。僕が恨みあるのはあくまで塔だけだ。箱庭の街は僕の復讐には関係ない」
「そうか――そうだな、目的を履き違えてはいけない」
「そういうことだ。目的は復讐、それ以外でもそれ以上でもない。それが確固たる目的なのだから。僕を手伝ってくれるか? 標葉」
「勿論だ。果てまでお前に付き合うよ、クロア」
「流石僕の標葉だ」

 クロアの強固な意思の塊である赤き瞳を標葉は視線をずらすことなく見つめる。
 それがクロアの当初からの目的であった。確かに自由を満喫することも目的であったが、優先順位は復讐の方が遥かに上だ。
 クロアが復讐を実行するなら、標葉はクロアの盾となり刃となり目的達成を手伝うだけ。

「なら……今日は早く寝るか」
「あぁ、明日に備えよう(僕にはね、標葉。戸惑っている猶予はないんだよ)」

 風前の灯であるのなら、迷いは不要。決意のままに――復讐する。


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