零の旋律 | ナノ

PurposeV


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 無線から連絡が入る。無線に付属している透明な石が赤色に輝くそれは王からの命令がある証拠だった。
 異端審問官のウィクトルは迷わずに通話ボタンを押す。
 王からの命令に気がついた織氷もウィクトルにくっついて耳を澄ます。一語一句逃がさない心の表れだ。

「はい、此方異端審問官第二組ウィクトルと織氷です」
『ウィクトルに織氷……正式な依頼が来た』

 やや間をおいて絶対の王は指令を下す。

「何なりと」
『研究の塔において脱走者クロアと標葉の正式な殺害依頼が来た』
「成程、ついに残りの執行官では出が出ないと判断が下ったのですね」
『そういうことだ』
「まぁそうでしょうね。実験体のクロア=レディットだけならまだしも、執行官においてgTの実力を有する標葉までもが一緒に脱走したのだから、彼より格下をいくら投入しところで足止め程度にしかならないものね」
『あぁ。だからこそ、お前らなら確実に二人を殺せると判断した、だから――』

 絶対の王の命令は疑う余地もない。そして何より“正しい”が故、間違いはない。つまり――彼らは死ぬと言うことだ。

「了解です、我らが絶対の王よ」
「了解です、我らが絶対の王よ」

 ――貴方の身心のままに。
 二人はその場にいない王に対して跪き忠誠を記す。

『……頼んだよ』

 そう言って王の声は途絶えた。

「さて、あの人の命が下ったわけだが、どうする?」
「そんなもの簡単よ。あの二人の目的は復讐。その為に箱庭の街に留まっているのよ。だったら態々探す必要はないわ。研究の塔で待ち伏せをしていればいいだけの話。正式な依頼が来たのならば、彼らも私たちが塔に滞在することを拒まないでしょう」
「それもそうだな。なら行くか?」
「いいえ、まだ必要はないわ」

 彼らは拠点としている宿の室内で会話をする。ふかふかのベッドの上で織氷は寛ぎながら答える。

「だって、まだ彼女は怪我で療養しているはずだもの。あまり早くにいっても居心地が悪いだけだわ。私たちがやるべきことはあの人の命令を完遂すること、それだけよ」
「それもそうだな」
「そうよ。だから暇よ、ウィクトル」


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