零の旋律 | ナノ

FriendU


 夕飯をどうだろうと誘ったクロアだったが、メリーゼは夜用事があり御免なさいと断られた。そうか、と笑ったクロアだが心の中では僅かにショックだった。予定があるのだから諦めろという思いと、メリーゼともっと一緒にいたい思いが交錯する。

「私も楽しかったよ。もしよかったら、また今度デートしませんか?」
「いいのかい! 約束だ!」

 メリーゼからのお誘いがクロアは凄く嬉しかった。

「勿論。お友達なんだから。その時は夕食も一緒に出来るように開けとくね」
「あぁ、僕とメリーゼは友達だ――」

 その瞬間クロアの表情が固まった。メリーゼが何、と言うよりも早くクロアがメリーゼを地面に押し倒した。
 メリーゼは衝撃を覚悟したが、衝撃はなかった。
 何かに守られているような、その感覚を感じるよりも先に、地面に押し倒されたメリーゼは見てしまった。頭上に煌めく死の刃を。
 そして、無数に輝く結晶の煌めきが舞う。
 クロアはメリーゼを横になぎ倒す勢いで手を振るう。メリーゼは転がる。しかし外傷一つなかった。それは道標のように結晶が地面にひかれていたからだと起き上がってから理解した。
 そして――死の刃の持ち主を認識した時メリーゼの表情が、身体が強張った。

「メリーゼ、下がっているんだ!」

 クロアの勇ましい声が、耳に届く。起き上がったクロアはメリーゼを守るように右手を横に広げる。
 クロアの周りには異形の結晶が蠢く。
 人々の悲鳴が響きあがる。人々は一目散に逃げ出す。それは――異形がそこにあるからであり、死の刃の持ち主が“何”であるかを認識したからだ。

「クロア=レディット、邪魔をするな。俺はお前に用はない、だからどけ。そうすれば痛い目を見ることもない」

 淡々と告げるのは、水色の艶やかな髪を持つ男性だ。黒のスカーフを首に巻き、ストライップの青いシャツを着た人物。
 クロアには見覚えがあった。
 あの時――クロアと標葉が研究の塔から脱走した際、標葉が刃を交えそして左目を失った原因である異端審問官の男だ。

「なら一体どこにようがあるというのだい?」

 クロアの疑問は尤もだ。目の前に突然という響きがふさわしい程突如現れた異端審問官の刃、刃が向いていたのは自分か一緒にいたメリーゼだけだ。しかしメリーゼに刃を向ける理由は何処にもない。彼女は少女だ。自分のような実験体ではない。
消去法で考えるまでもなく、標的は自分であった筈なのだ。
 ただ、クロアが知らないだけだ。異端審問官と初めて出会ったのが、脱走する時であったが故に――彼らの仕事が“何”であるかを。

「そこの少女に用があるんだよ」
「メリーゼか? 何故だ。メリーゼはただの少女だ」
「そうだ、ただの少女だ。君のような“異能”はない。それでも――“異端者”ではあるんだよ。それはつまり、異端審問官(俺たち)の獲物だ」

 背筋を凍らせるような冷たい視線。
 視線だけで人を射殺せると言われても不思議ではないほどの圧倒的殺意。
 既に周りには誰もいない――クロアとメリーゼ、そして異端審問官だけだ。

「どういうことだい? 異端者、それは一体……?」
「そうだな、お前は何も知らない無知な実験だ。ならば一つ忠告しよう、異端審問官(俺たち)の邪魔をするな、邪魔をするならただでは済まないぞ」
「はぁ? 君は何を思いあがっているんだ。僕が“友達”を殺させるわけないだろう!」

 圧倒的殺気に対して、冷や汗一つ流さず、高慢ともとれる態度を貫くクロアは高らかに宣言する。


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