零の旋律 | ナノ

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 早朝、クロアは嬉々としてクローゼット名の中から服を取り出して選んでいた。

「標葉、標葉! どの服がいいと思う?」

 そう言って下着姿のまま標葉にどの服がいいか、手にしながら問うが、標葉自身はクロアに背を向けて、壁とお友達になっていた。

「何故そっちを向くのだ」
「わかった、着替えたら見てやるから、まずは服を着ろ」
「一々服を着て見比べるのは面倒だ。選んでくれ」
「なら選ぶからお前が着ろ」
「……何故こっちを見ない? はっひょっとして!」

 やっと壁とお友達になっている理由に気がついてくれたかと思った標葉だったが甘かった。

「僕に胸がないからかっ!」
「違うっての! そもそもお前は女だろ、男にそんな服を選ぶ際に下着姿で聞くなって話だ!」
「むむ? 何か問題でもあるのか?」
「大ありだ!」
「別に男も女もそんな差はないだろう。細かいことを何故気にする。それに僕にとってはそんな問題は問題ではない。今、解決したいのはどの服ならメリーゼとデートをするのにふさわしいかってことだ」
「俺と出かける時はそんな服に迷っていなかっただろう」
「標葉の時は着てみたい服を着ることにしているからだ。だが、メリーゼはその初めての友達だ……か、可愛く見られたいものだろう」

 それは彼氏とデートする時の乙女の心情だよ、標葉は心の中で悪態をつく。

「なら折角だ、昨日買った新しい服でも着ればいいだろう? 試着姿は見たが、可愛かったし」

 必死にクロアの方を向かなくていい答えを探した結果、昨日買わされたばかりの服が脳内を過った。

「成程! 忘れていたよ。ならそれにすることにした」

 そう言ってからの着替えは早かった。クロアが服を着た所でほっと溜息をついて、振り返る。黒を基準とした服装、胸元には真っ赤なリボンがありそれが可愛らしさを強調している。ミニスカートの類になる黒のスカートに、ニーソックス。袖口は手が隠れるほどの長さでフリルが先端にはついている。背中には羽をモチーフにしたようなのがちょこんと飛び出ていた。黒と赤を基準とした、服装に鮮やかな金髪は凄く似合っていた。
 クロアが頭を差し出してきたので、標葉は左側に黒のリボンがついたカチューシャをつけてあげる。

「ふふふ、これで完璧だ」

 鏡の前で満足げな表情を浮かべるクロアに、標葉は黒の小さい鞄の中に財布などの貴重品を入れて手渡す。

「気をつけて行っておいで」
「うん! そうだ、標葉は今日どうするんだい?」
「俺は家事をしたり色々やるさ」
「豪華な食事が食べたいな」
「腕によりをかけさせてもらう。なんだったらメリーゼも連れてくるといいさ」
「それは名案だ。標葉の料理は美味しいからな」

 そのまま扉を開けようとした手を標葉が止める。

「行く時はなんて言うって教えた?」
「いってきます」
「いってらっしゃい」


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