零の旋律 | ナノ

DailyV


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「随分と満喫しているご様子で」

 景色を一望できる屋上で、二人の人物――異端審問官が立っていた。遥か上空から、彼らの動向を察知できる驚異的な視力を有している。
 その視線の先に映るのは、仲良くウィンドウショッピングをする黒服の少女クロアと元執行官の標葉がいた。クロアの手に引っ張られながら標葉がついていく。

「本当ね、で、どうする?」

 異端審問官である青年と少女の視線は既にクロアと標葉から外れていた。
 彼らのターゲットはクロア=レディットではない。

「そーだなぁ。まだ本命終わっていないし、後回しでいいだろう。それにお手伝いを依頼されただけだ。正式な協力要請じゃない、まだ手にかける必要はない」
「それもそうね。私たちの王が望むのは異端者を狩ることであって、研究者たちの手に負えなくなった獣を始末することじゃないわ」
「随分と辛らつなことで」
「あら、私も貴方も言っていることに変わりはないと思うけど?」

 視線は次から次へと移動しながら街を一望するが、ターゲットは見つからない。“異端者”は何処へ隠れている――何処へ隠れていようとも、異端審問官の瞳からは逃れ慣れないと言わんばかりの鋭い視線が何処かに雲隠れしている異端者を捉える。

「それにしてもこうも見つからないと苛立つわね」
「暇か?」
「暇よ」
「なら、少し遊ぶか?」

 青年がそう言ってきたので、少女は口元を歪めて同意した。
 どうせ――集中して見張っている必要はない。異端者は現れるところには現れる。
 いくら普段は地中で身を顰めていようとも、顰め続けているだけでは、何の改革も出来ない。そう、巣に籠もっているだけでは箱庭の街を解放することなど不可能。

「えぇ、それがいいわ――ウィクトル」



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