結 担当:緋夜 三階に上がった所で、湧いたように各部屋の扉から出てきた警備兵たちに容赦なくアレックスとアークが銃弾や門燈を食らわせる。その間に祐未とシェーリオルは目的の部屋に到着した。 三階右奥の応接室の扉を乱雑に開けはなった祐未と担がれたままのシェーリオルの前には、三人の警備兵と彼らに守られるように一人だけ豪華な衣装で着飾り、手には輝く赤い魔石を握りしめている男――魔石商人ミルラ・ウィーンがいた。 「おっビンゴ。流石ナビ!」 「だからナビじゃないって」 「な、何なんだお前らは! いきなり人の屋敷に侵入してくるとは無礼な! ってあぁ……」 混乱しながらも、侵入してきた彼らに対して傲慢な態度で捲し立てようとしていた魔石商人は途中で口が開いたまま固まった。 視線の先にはようやっと担がれた状態から解放されたシェーリオルがいた。 「ん? 何?」 「ま、まさか第二王位継承者!?」 「ご名答。まぁ――別に国とかのためで来ているわけじゃないから気にしなくていいよ。お前はただ、策士に目を付けられただけだからな」 「なぁリーシェ。策士と国ならどっちが面倒なんだ?」 「そりゃ、どっちも御免だろうけど、目をつけられたくないのは策士の方なんじゃないのか」 魔石商人は額から汗を流すが、しかしこの場にいるのは少女と王子だ。 いくら王子が魔導師として有名だとしても、それは“王子”の名があるからだろうと高をくくった。 少女と王子に一体何が出来るというのだ、勝機はまだある、と思いこんだ。 警備兵に手で合図をするが、それとほぼ同時に祐未がホルスターに手をかけ、滑らかな動作でデザートイーグルの引き金を続けざまに引いた。 「な……」 魔石商人の顔に付着するは、今し方までは生きていた人間の血だ。ぬめりと顔から血が滴る。 一瞬のうちに生きていた警備兵は一人もいなくなった。残すは魔石商人だけだ。 シェーリオルの髪留めの魔石が輝くと、魔石商人の身体は光の鎖に縛られて身動きが出来なくなる。 そこへ外にいた警備兵の片付け終わったアークとアレックスがやってきた。 「外は片づけてきたよ」 「ってあれ、殺していないのか?」 生きている魔石商人にアークは首を傾げる。 「ちょっと、な」 魔石に関してはシェーリオルに任せた方がいいと思っているのは三人の見解だ。 動けない魔石商人にシェーリオルが近づく。怯えようが叫ぼうが身動き一つ取ることは出来ない。 シェーリオルは一卵性双生児から作り上げた魔石を奪い取る。 そして祐未やアーク、アレックスたちと魔石商人の中間で歩みを止めた。 歩みを止めたと同時に一卵性双生児の魔石が輝きだした。 赤く、濃い血の輝きが『魔法』を形成していく。幻想的な赤き鳥を彩り、宙へ躍り出る。 光を放ち、幻想的な光の粉を生み出す光景は、夢現のようだ。 「すげぇ! 何この魔導いいな!」 「ほお、素敵だね」 祐未やアレックスから感嘆の声が聞こえる。 幻想的な魔導が効力を失って消えると同時に普通ならばあり得ないことが起こった。 本来、魔石とは一人の血によってしか形成出来ない。 しかし、彼の手にあるは一卵性双生児の二人によって一つの魔石が作り出された稀有な存在だ。 その魔石が、突然砕け散ったのだ。 霧散した魔石は次第に力を失い跡形もなく消える。 「な、な、な!?」 魔石商人は驚愕のあまり言葉が言葉を形成しない。 「ふーん。ミルラ・ウィーン、一卵性双生児の魔石とはこの程度の魔石みたいだな」 魔石商人の方を向いたシェーリオルの整った顔立ちから作られる、その笑みが酷く不気味だった。 「さて、帰るか」 シェーリオルが祐未たちの振りむき、そちらへ向けて一歩踏み出す。 殺さないのか――? アークが疑問に思うより早く、光の剣が無情にも魔石商人を貫いた。髪留めにしている魔石の輝きが次第に収まる。 「なんで、殺すの後回しにしたんだ?」 「そりゃ、万が一あの魔石が壊れない魔石だったら――魔石商人を生かしておく必要があるだろう?」 その結果は魔石商人の死体が物語っていた。 「あ! テオに魔石を持ってこいって言われてたんだ!」 階段を下りた祐未が今思い出したと言わんばかりに声を上げる。 「なら、王子様が壊したとでも伝えておけ」 シェーリオルが軽く答える。壊したのは事実だ。 「ってなんでリーシェが魔導を使ったら壊れたんだ? その魔石は壊れてないじゃん」 祐未は髪留めにも使われている魔石を指差す。 「俺が魔石を使ったら大抵壊してしまうからだ。けど、この魔石だけは特別なんだ。今回の一卵性双生児から形成された魔石ならどうなんだろうなって思ったのさ。まぁ結果は他の魔石と同じだったけどな」 「ふーん、態と壊したのかと思ったよ」 アークが気にした様子もなくさらりと言う。 シェーリオルは『通常の魔石』を壊してしまう異様な魔導師だ。だからこそアークはあの場でシェーリオルが魔導を使用したのは、魔石を他人に手渡さないためだと思っていた。 「そんな勿体ないことするかよ」 「成程! リーシェ君は情報漏洩を嫌ったのだね!」 「いや、アレックス、態と壊したわけじゃないんだけど……」 「アルでいいよ!」 「はぁ……もういいや(それに、どうせアークやアレックスの答えが正解だ)」 偽ることにシェーリオルは別段罪悪感を抱かない。 全てを抹消するなら、この屋敷が存在しなかったことにすれば――いいだけなのだから。 外に出た所でシェーリオルの魔石が不気味に輝いた。 「にしてももっと強い奴と戦いたかったなぁ。物足りない。というわけで、祐未にアルにリーシェどうだ、今から戦わないか?」 戦闘狂の発言は華麗に無視された。 正確にはアレックスは答えたのだがアークの望む答えではなかったのは言わずもがな。 こうして、彼らは傷一つ負うこともなく依頼を完了したのだった。 END [*前] | [次#] |