零の旋律 | ナノ




担当:都神ナナエ様


「おい、気付かれたってことは早めに動かねぇと魔石持ち逃げされるってことだよな」

 クセのついた髪をガシガシとかきむしりながら言った。暴力沙汰に明るい三人組から一歩引いて立っていたシェーリオルは腕を組んだ状態のまま

「そうだな」

 と頷く。
 直径一cmはあろう銃口を豪邸の方に向けたままアレックスも祐未を見た。ニコリと笑った顔には微かな緊張感が漂っていたものの、危機感はない。

「では、皆は先に邸内に侵入してくれ。私はここを片付けてからいくとしよう」

 彼の提案に意義を唱えたのは門燈を持ったアークだ。

「おいおい、美味しいところを独り占めか?」

「そんなことはないさ! むしろ強力な魔導を使うかもしれない商人を捕らえてもらうのだから、君のほうが大変な仕事だと思うけれどね」

「魔導が使えたってイコール戦えるってワケじゃない。素人相手にするよりこっちで警備員と戦ったほうが楽しいに決まってる。人数もこっちのほうが多いだろうし」

 戦闘狂のアークらしい意見だ。アレックスも彼の意見に一応納得したらしく

「ふむ」

 と銃を構えたまま首を傾げて見せた。痺れを切らしたのは祐未だ。

「だぁーもうじゃあおまえら二人でやれよ!」

 言うや否や、彼女は後ろに立っていたシェーリオルの腕を掴んで走り出す。一応武道もたしなんでいる彼は祐未の足になんとかついて行ったが、なんの前触れもなくこういうことはやめてほしいと切に願った。アレックスとアークは祐未の意見を採用するつもりらしく、二人で顔を見合わせこちらも走り出す。豪邸の窓が全て開け放たれ、風船の割れるようなパンパンという音と共に地面の砂が巻き上がる。頭上から狙撃されているようだ。同時に魔導による炎や雷も振ってくるが、走る四人には当たらない。魔導はそもそも地面にあたるまえにシェーリオルに無効化されてしまっていた。降り注ぐ炎や雷がシェーリオルの作り出した魔導の障壁によってかき消える様をアレックスが楽しそうに見つめている。
 
「すごいねっ! ゲームみたいだ!」

 祐未もアレックス同様、かき消える魔導を見上げた。

「マジだ! やっぱすげぇ! あたしもこういうのやりたい!」

「レジスと国光は君がステッキを振ると可愛い戦闘服に変身するシステムを考えているようだよ!」

「それやだ! あいつらの好きな服ヒラヒラのフリフリで動きづれぇんだもん! パニエはいったスカートで戦うとかイカレてんだろ! 部屋にひきこもってばっかいっからそういうこと言い出すんだよ!」

「レオタードにアーミージャケットでもいいらしいよ」

「あとであいつら殺す」

「そうか。伝えておくよ」

 頑丈な扉を蹴破って邸内に突入すると、武器を持った私兵が襲い掛かってくる。まずアークが門燈で五人ほど殴り飛ばし、アレックスがS&WM500で後方にいる敵を撃つ。簡易机のように重い物が床にたたきつけられる時の音がして人の頭や腕、胴体が文字通り弾け飛んだ。撃たれた死体は棍棒で叩き潰されたスイカのような有様だ。恐ろしい反動がある銃だろうに、平然と五発続けて打つ彼の筋力には舌を巻くばかりである。死体を見て吐くという経験がなかったシェーリオルだが、今まで動いていた人間が一瞬にしてひしゃげた肉の塊になるとさすがに眉をひそめたくなった。祐未がアレックスに視線を向ける。

「前々から思ってたけどさ、M500って人向けて撃つ銃じゃぁねぇよな」

「祐未の持っているデザートイーグルも同じくらいの威力じゃないか」

「そういやそうだったわ」

「デザートイーグルも2キロあるからね?」

「M500もな」

 バァン、バァン、と床に重い物をたたきつける音が響いてまた敵が数人倒れた。前方ではアークが門燈で3人ほど殴り飛ばしている。銃を持った祐未が片手でシェーリオルの腕を掴み、階段に足をかける。バタバタと騒がしい足音がしているので、まだ敵が増えるのだろう。アレックスがM500の銃口で二階を指し、吠えた。

「行け、祐未! 魔石を回収するんだ!」

「アイ・サー!」

 アークが叫んだ祐未のほうを振り向く。

「あ! おいあんまり俺の獲物を取るな!」

 彼の言葉に被せるように、祐未がリーシェに言う。

「おいリーシェ、キビキビ走れよ!」

「銃弾避けられるような化け物どもと一緒にしないでくれ!」

「祐未! リーシェ君は担いでしまえ! 魔石を扱う時は彼がいてくれないと困る!」

「おいアーク、あたしいまからリーシェ担ぐからちょっと周りの奴頼むぞ!」

「まってましたってやつだ!」
 銃弾と同じくらい言葉が飛び交う中、祐未が宣言通りシェーリオルの腰を掴み肩に担いだ。銃を腰のホルスターにしまい階段を駆け上る。アークとアレックスが攻撃できない祐未の変わりに敵をなぎ倒していく。文字通り、あるいは見た通り。担がれたシェーリオルは、力なく

「……カンベンしてくれ」

 とだけ呟いた。
 彼の言葉を綺麗に無視して祐未は問う。

「ボス部屋は何処だ、ナビィ!」

「誰がナビ(案内)だ……! 取引は、三階の右奥にある応接室で行われるらしい」

「わかった!」

 自分より年下の少女に担がれながら、これはなにかあったら自分が魔導でどうにかしなければならないのだろうなと思い至り小さくため息を吐いたのだった。


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