零の旋律 | ナノ




担当:都神ナナエ様


「よおレインドフ、依頼もってきてやったぞ」

 とても整った顔立ちの男がレインドフの屋敷にやってきてそう言った。どこかで見たような光景にアークは思わず眉をひそめる。

「おっと、酷いな。依頼もってきたって言ってるのに」

「前も似たような会話をしなかったか。リヴェリア王国第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニ」

「だから、リーシェでいいって。カサネの依頼だよ」

「相変わらず策士の小間使いか。王族っていうのはよっぽど暇なんだろうな。羨ましいとは思わないが」

「仕事中毒のアーク・レインドフらしい答えだ」

「で、その仕事ってのはお前の後ろにいる奴らと関係があるのか?」

 アークの指差した方向にはひと組の男女が立っていた。クセのある黒髪をセミロングにして黒縁眼鏡をかけた女とライトブラウンの髪とアクアブルーの瞳を持った男だ。男――アレックスははアークと目があった瞬間にこやかに笑って片手をあげる。黒髪の少女、祐未はやる気なさげに手をひらひらと振って見せた。『異世界』からきた兵士である二人はアークに引けをとらない実力がある。策士様は他人に貸しを作るのが嫌いだ。それなのに彼らを呼んだということはかなり大きな仕事なのだろう。アークが身を乗り出すようにするとシェーリオルが目に見えて苦笑した。失礼な男だ。

「帝国が大金を叩いて魔石を買うって話がある。それを阻止したい」

「魔石の売買くらいいつものことじゃないか」

「その魔石が問題なんだ」

「なんだ、膨大な量なのか?」

「いや、一つだ」

 シェーリオルの返答を聞いた途端、アークの顔つきが変わる。

「……どんな代物なんだ」

「話が早くて助かるな。魔族二人分の血で作ることに成功した魔石らしい。ミルラ・ウィーンという男を知ってるか」

「魔石商人だろ。有名だな」

「そいつが帝国に売るって話だ」

「確かな話か?」

「カサネが仕入れた情報だからな」

「そうか……厄介だな」

「帝国に使われでもしたらもっと厄介だ」

「だから祐未とアレックスもいくんだな」

「相手は帝国だからな」

 後ろで笑顔を浮かべていた男が口を挟む。

「アルでいいよ!」

 シェーリオルは彼に視線を向けずに言った。

「ちょっと黙っててくれ」

 アレックスが心なしかしょんぼりした顔をして口を噤む。
 アークは笑う。王族の依頼なら報酬は十二分に用意してくれるだろう。なにより、依頼内容が面白そうだ。

「解った。引き受けよう」

 既に彼の返答を予測していたのか、シェーリオルは口元に小さな笑みを浮かべて頷いただけだった。


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