零の旋律 | ナノ

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「私やユーティスのような存在であれば契徒を殺害出来る。契約をしていない契徒であれば普通に。契約をしている契徒でも、リティーエの民との関わりを遮断してしまえば契約をしていない状態と同義になるからな」
「ほへ?」
「私が殺す手法をお前たちが知ったところで是はお前たちには出来ないことだ」
「ふーん。じゃあ、いいやーよくわかんないってことで納得しておくよ」

 そこで納得するんだ、とレストは内心ツッコミを入れた。
 シャルの行動原理も探求心理もよくわからないレストだが、今に始まったことではない。レストとしてはもう少し詳細が知りたいと思った。
 けれどルーシャの放つとげとげしい雰囲気に気楽に話しかけられなかった。
 氷室の傍を離れたくない、と思うほどにルーシャという存在が怖く思えたのだ.。最初に精霊の王が氷室を傷つけたのがトラウマとして残っているのだ。レストにとって氷室は幼いころから自分を育ててくれた両親のような存在だから。
 街の中心部の広場にて、異界繋ぎを発見する。異界繋ぎはシャルとレストの理解の範疇を超えるものであった。見なれる銀色の円盤がいくつも複雑に重なり合い、上空を浮遊している。土台のようなものには楽器を奏でる鍵盤のようなものがずらりと並んでいて、意味不明な言葉が羅列している。ルーシャは迷うことなく異界繋ぎの装置を振れる。

「はっ待てよ!?」

 氷室が思わず声を上げる。てっきり異界繋ぎを作動させるのは自分の役割だと思っていたのだ。この中で契徒であるのは氷室だけ。
 けれどルーシャは手慣れた手つきで装置を起動させる。
 鍵盤のようなものとは別に、無数の文字盤が空中に現れ、必要な文字コードをルーシャは入力していく。
 半透明に四角な図面をルーシャが手で触れると、そこに描かれていた言葉が変わる。
 レストとシャルは何をしているのか全く理解できず呆然とする。
 暫くルーシャは文字を鍵盤と文字盤両方を巧みに操り起動準備を進めていく。
 氷室はルーシャの姿を見ながら思いっきり眉を顰めた。

 ――本当に、何者だよこの精霊は

 得体が知れなくて不気味だ、と氷室は感じ取った。その得体が知れなさは精霊の王と知る前に出会ったユーティスを上回っていた。
 起動の準備を迷うことなく整えた所で、ベルジュとアーティオがタイミングよくやってきた。

「間に合ったみたいですね」
「ベルジュ兄さん。アオ、随分早かったね」
「えぇ。予想外に途中でベルジュと合流出来たのですぐに追うことが出来ました」

 その言葉に氷室はなる程、と口には出さず頷いた。ベルジュは暗殺以来の他に単独で赤いゴージャスなの即ち精霊の王を追っていた。精霊の王が姿を見せた街の近くにベルジュがいても何ら不思議はない。
 だが、この事実をルーシャが知っているのかどうかは別として告げることはしない。余計な波風を立てる必要はない。下手をすれば契徒の世界へ行く前に争いが勃発して甚大な被害をこうむるだろう。ベルジュという暗殺者は精霊術だけでなく契術――それも完全譲渡された影の力を扱うことが出来る。さらに暗殺者としての技量は非常に高い。

「集まったのならばさっさと行くぞ」

 ルーシャが異界繋ぎを起動させる最後のボタンを押すと、その場から少し離れる。
 不本意そうにレスト達の隣へ並ぶと、足元に陣が浮かび上がる。爛々と輝くように、陣は発光し、螺旋を描くように光がレストたちを包み込んでいく。
 眩い光は、瞳に白の明るさ以外を映し出さない。次に視界が開けた時、眼前に広がった光景は異世界だった。


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