零の旋律 | ナノ

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 目的地へ向かうため、氷室は浮遊する。ふと視線にレストを入れる。レストの体力を考えれば、抱きかかえて移動した方が効率的だ。そう判断した氷室は背後からレストを抱きあがる。そしてそのまま移動すると、背後をピッタリとくっつく形でシャルとルーシャが走っていた。

「……俺も走る」

 レストが一人だけ抱えられている事実に、ふてくされ気味で氷室に抗議をしたが

「そんなことしたらお前、目的地についた途端ばてて動けなくなるだろ」
「でも……俺だけずるしているみたいじゃん」
「レストがずるだったら俺もずるだからいいだろう?」
「そうかなぁ。何か違う気がするんだけど」

 レストはまだ納得はしていなかったが結局目的地まで、レストは氷室に抱えられたままだった。

 一つの街を通過して、そこから森の中をひたすら進んでいくと、やがて氷室は飛行を止めた。

「この先か?」

 ルーシャの問いに頷く。街を一つ越える距離をシャルとルーシャはひたすら走っていたが、暗殺者であるシャルはともかく、精霊のルーシャも疲れた様子は一切ない。レストを下ろすと、レストはややふてくされていた。

「そうだ。この先にある街だった場所、確か数年前に盗賊が押し入り住民を皆殺しにした
事件があっただろ? で、廃墟となった所に契徒は目をつけてそこに異界繋ぎといった械を設置している」
「人気のない所か、確かに好条件だな」

 ルーシャは隠れて進むことなく堂々とした足取りで歩み出したので氷室は慌てて止めようとしたが、どの道――契徒との戦闘は避けられないのだ。
 問題はない、むしろ精霊様が率先して敵をなぎ倒してくれるのならば余計な秘密を暴露しなくて済むと判断した。
 ルーシャの荘厳たる雰囲気に、契徒たちは一斉に振り向く。圧倒的気配を放つ存在が現れれば反応せずにはいられない。ルーシャは無言で白銀の剣を抜き取る。ガラス細工で出来たような精巧な剣が一閃すると血飛沫が上がる。銀の世界にもたらされた赤が、雨となり大地に降り注ぐ。
 この世界にいる契徒の殆どは契約をして契約者がいる。例えこの場で作業をしていたとしても、だ。
 それなのに、ルーシャは契徒の治癒力を諸共せずに淡々と殺害していく。それは感情を伴わない単純作業のようだ。

「やっぱり精霊は契徒を殺せるんだね」

 シャルはクナイを振りまわしながら呟く。
 契徒の治癒力は契約した割合によって違うが、傷つけたところで治癒されてしまい致命傷を与えることは叶わない。ならば、シャルが戦うよりも契徒の治癒力を諸共せずに殺害出来る精霊が戦った方が効率的ではあった。アイのことを心配しているシャルだが、非効率的なことをすることはしない。
 襲われたら攻撃をする程度だが、ルーシャの背後からついて歩くレストたちよりも契徒の視線は契徒を殺せる存在しか眼中にないようであった。
 程なくしてこの場に滞在していた契徒は全滅した。

「さっすがだね! ルーシャも普通に契徒を殺せるってことは本物の契徒狩りは二人いたってことだね。二人っていう表現でいいのかわからないけど」

 能天気にシャルは言う。


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