零の旋律 | ナノ

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「では、俺も行きましょう。シャル一人で異世界へいったとなると後でベルジュに何を言われるか」
「……先に言っておくが、精霊術は使えないからな。契術であれば扱えるが」

 契約者でないアーティオに向けてルーシャは言い放つ。シャルの雰囲気からいって契約した割合は薄いのをルーシャはわかっていたが、それでも契術を扱えないわけではない。しかしアーティオは契約者ではない。精霊術も扱えない敵地に乗り込まなくてはならないのだ。

「大丈夫ですよ。確かに、貴方を除いたこの面子でいえば俺が一番精霊術の扱いには長けていますが、別に専門家ではありません。貴方に心配して頂く必要はないと自負していますよ。それと、氷室。異界繋ぎは少し距離がありますね?」
「あぁ。それがどうした?」
「場所を教えてください。私は一旦別行動をします。多少合流には遅れるでしょうが待っていてください」
「どうしてだ」

 ルーシャが露骨に眉を顰めたが、シャルと同様アーティオは全く気にせず続けた。

「ベルジュを連れてきます。ベルジュ=シャルア。貴方は知らないでしょうが、シャルの兄にして暗殺者です、何より――契術が扱えます。実力は俺が保障します。まぁ状況によっては俺を置いていっても構いません。しかし、出来ることならばベルジュを連れて行った方が有利ですよ」

 正面からルーシャを見据える。

「嘘や誇張はしていません。何せ、将来貴方の敵になる男でしょうから」

 自信に満ち溢れた瞳からは誇張を感じられなかった。将来敵になるという言葉の真意は測れないが、推測するに契術が扱えるからだろうとルーシャは判断する。契術は――契徒はユーティスの敵だ。契術も同様。契約者に関してユーティスは敵愾心を抱いていないが、それでもルーシャにとって契約者は味方でもない。けれど、大事なのは将来ではなく今だ。ユーティスを助けるためならば、将来敵になる男と一時的に手を組んだところで構わない。

「いいだろう。だが、私が待てないと判断したら置いていく」
「えぇ。では氷室」
「あぁ」

 氷室はアーティオに場所を耳打ちする。アーティオは頷いてから疾風の速度でその場から消え去った。

「氷室は契徒の世界へいくのか?」
「まぁ不本意だが案内しないわけにはいかないだろう。レストは危険だから」
「俺もいく!」

 危険だから此処に残っていろという言葉を遮ってレストが断言する。

「氷室が行くなら俺はついていく。駄目だとは言わせない」
「……わかったよ」

 氷室としては敵しかいない契徒の世界へレストを連れていきたくなかったが、此処で言いあいをしても痺れを切らした精霊が何をしでかすかわからない。精霊の王とはまた別の危うさをこの精霊から氷室は感じ取っていた。

 ――それにしても、精霊術が使えない、精霊にとって悪条件しかないのに何故そうも自信満々でいられるんだ? お前は。


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