零の旋律 | ナノ

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「で、ユーティスはどうした」

 ルーシャの鋭い言葉に、レストはシャルを見る。

「僕が答えるよ。精霊の王様は此処に契徒の組織があるっていっていた。それを壊滅させるために此処に来たって。僕の契徒であるアイちゃんは、だから今回は見逃すから立ち去れってわれたんだ。けれど、この周囲には契徒の能力で姿を隠れている契徒たちが潜んでいた。その契徒たちが姿を現すと、よくわかんない物体がひかって精霊の王様とアイちゃんを連れ去ったんだ、それが何のか僕にはわからない」
「――『異界繋ぎ』か」

 シャル曰くよくわかんない物体の正体は同じ契徒である氷室はすぐにわかったが、氷室が答えを言う前にルーシャがその名を口にした。氷室は目を細める。

「異界繋ぎ?」

 シャルは首を傾げる。始めて耳にする言葉だった。

「そうだ。契徒がこの世界リティーエと、契徒の世界を行き来するための装置だ。それを使って、契徒は世界を行き来している。それでユーティスとアイとやらは攫われたのだろう。成程、こざかしい真似を」
「けど、何故ですか? 元々契徒であるアイはともかく、契徒狩りともよばれる契約を結んでいる契徒すら殺害することが出来る精霊の王を、契徒の世界へ送り込んだ所で、意味があるのですか? ……確かにあちらのアドバンテージはあるかもしれませんが、賢い選択肢とは思えません」
「いいや、違う。最良な選択肢だ」

 アーティオの言葉をルーシャはすぐさま否定する。

「精霊がいないからな」

 氷室はルーシャが否定した理由を呟いた。アーティオは目を見開く。精霊が存在しない世界等が存在するとはにわかには信じられないが、この場で氷室が嘘をつく理由はない。

「精霊が……成程。貴方たちの世界に精霊はいない。つまり、精霊が存在するからこそ扱える精霊術は扱えないということですか」

 それならば精霊の王を契徒の世界へ攫う理由が出来る。

「それだけじゃない。ユーティスは“精霊”そのものだ。精霊の塊であるユーティスは、契徒の世界に長時間滞在すればユーティスとしての存在を失う。精霊術を行使も出来ないし、肉体的にも一気に弱体化する。契徒にとって精霊の王は邪魔な存在でしかない。だから、契徒の世界へ攫うことは利点しかないんだ。勿論、その奇襲が成功すればの話だがな」

 ルーシャが補足しながら、この状況を最悪だと悪態をついた。ルーシャにとってユーティスは守るべき存在で唯一無二の大切な精霊だ。

「……契徒」

 ルーシャの視線がこの場唯一の契徒である氷室へ向く。

「なんだ?」
「契徒が使う異界繋ぎはこの世界の各地に配置されているはずだ。他に異界繋ぎがある場所は何処だ? 契徒ならば知っているだろう」
「知っているが……お前がそれを知ってどうする」
「決まっている。私はユーテを取り戻すために、契徒の世界へいく。それだけだ、案内しろ」
「はっ。精霊が自ら敵地へ乗り込むか?」
「私は問題ない。精霊術が扱えなくとも遅れを取ることはない」
「じゃあ僕もいくから氷室案内宜しく」

 シャルがさらりと続ける。ルーシャは同行者を好まないようで視線を鋭くしたが、シャルは気にも留めない。

「千愛を取り戻さなくちゃね。僕から千愛を奪っておいて――タダで済むと思うなよ」

 暗殺者シャルドネ=シャルアの言葉。

「足手まといにはなるなよ」

 同伴者は好まないが、しかし戦力になるのであれば問題ないとルーシャは判断した。

「はっ? 僕を誰だと思っているの。精霊様は知らないかもしれないけれど、是でもシャルドネ=シャルアって名前結構有名なんだよ」

 大胆不敵にシャルは断言する。


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