零の旋律 | ナノ

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 この世界に害ある侵略者『契徒』を精霊ルーシャが殺害しようと、その身に殺意を纏わせた時、世界から精霊の王が消えたのを肌で実感した。
 慌てて空へ目を向ければ、精霊の主が世界を守るための膜が消えかけている。

(ルーシャ!? 何処へ――)

 精霊の王を探そうと気配を張り巡らせても、何処にも感じ取れない。
 契徒を殺害するよりも、精霊の王の安否を確認する方が最優先だ、ルーシャはユーティスの気配が最後にした場所へとかける。
 ルーシャのただごとではない気配に、氷室とアーティオは顔を見合わせ、結論としてルーシャの後を追った。神速とも取れる速度で地面をかけるルーシャだったが、暗殺者であるアーティオと浮遊出来る氷室は、多少の距離は開かされたものの姿を見失うことはなかった。
 いつの間にか、ケイは目的を達成出来たからか姿を消していたが、それを気に止めるものは誰もいなかった。
 ルーシャが辿りついた街メルガラにはユーティス以外の気配が二つあった。

「ユーティスは何処だ」

 冷たい声を浴びせる冷徹な人物に、レストは身構えるが背後から氷室とアーティオの姿を発見して胸をなで下ろす。

「……お前は誰だ」

 そんなレストとは対照的に氷河のような冷たい視線をシャルがルーシャへ向けたが、怯むようなルーシャではない。此方も絶対零度とも取れる冷たさを有している。一触発の雰囲気だが、そこに割り込んだのはアーティオだった。柔和な笑みを浮かべて、この場の空気を解そうとしている。

「シャル。落ち着いてください。貴方も、状況を教えて頂けますね? 貴方は何がどうなったのか理解しているのでしょう?」
「……お前たちには関係がないだろう」
「関係はありますね、貴方の行動から鑑みるに、精霊の王を探しているのでしょう? そして私たちが探しのアイどちらも無関係とは思えません」

 一旦区切る。シャルが常に一緒にいるアイの姿が見当たらないのは、偶々席を外しているからだ、とは到底思えなかった。そうでなければシャルがあんな冷徹な表情をしているわけがないと判断を下したのだ。

「知っているのでしょう? 貴方がお話ししてくれれば何がどうなったのかシャルも見たことを教えます、いかがですか」

 アーティオの冷静な対応にルーシャはしばし思案するが、やがてユーティスの身を案じるのが最優先だと頷いた。

「シャル。アイは大丈夫だ。少なくともすぐに殺害されることはない」

 同じ便宜上は契徒である氷室の言葉に、シャルの剣呑とした視線も徐々に光を取り戻していった。

「嘘じゃないよね?」

 但し、嘘であれば氷室を何が何でも殺すと言う殺意を込めていた。

「シャル。氷室は嘘なんかつかないよ」

 そこで真っ先に異論を唱えたのは氷室に嘘で塗り固められ、真実を隠されているレストだった。

「一度も嘘をついたことがないとかはないけれど、アイのことに関しては保障する。『千愛』は別に殺す対象ではないからな」
「わかったよ。じゃあ氷室の言葉を信じるね」

 表面上は普段通りに戻ったシャルにレストはほっとする。例えシャルが笑いながら人を殺せる人間だったとしても表情を押し殺したような――レストがイメージする暗殺者としての顔をされるよりはましだった。


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