V レストとアイが慌てて周囲を見渡す。 現在地は街の入り口。内部へ視線を移せば建物が並ぶが、この場所においては何もない。木々すら殆どない場所だ。人が隠れられるような場所は市街地へ入らなければない。 それなのに囲まれている、それはどういう意味か。アイがシャルに問いただそうと思ったところで――気付いた。 「まさか!」 冷や汗が肌を伝う。ごくりと唾を飲む。 「うん。契徒の能力でしょ? 姿は見えないけれどいる気配だけはわかるよ。気配を絶ってはいるつもりみたいだけれど、僕にはわかるよ」 暗殺者に通じるわけがないよね、シャルはそうにっこりと笑う。普段よりもゆったりとした動作でクナイを何もない空間へ放つ。すると、本来威力が失速して地面へ落下するはずだったクナイがあらぬ方向へ弾き飛ばされた。 「ほらね?」 囲まれていたのならもっと早く言ってくれとレストは叫びだしたい衝動にかられるが、恐らくこの場へ足を運んだ時点で同じ結末だったのだろうから変わらないかと諦めた。 「――いいわ、解除しなさい」 厳かに告げる声が何もない空間から響く。その声はレストにとって忘れたくても忘れられない声――レイシャだ。 空間が歪むと同時に、何もない空間から突如として契徒が無数に現れた。そして――いたるところに謎の装置が置かれていた。シャルとレスト、そして精霊の王にはそれがなんであるか理解出来なかった。唯一理解出来るアイの顔色が変わる。 契徒が複数人飛び出す。ユーティスが好機、と一歩踏み出した時――ユーティスの足元に陣が浮かんだ。契徒の世界に存在する装置が眩い光を放つ。突然の出来ごとにユーティスの反応が遅れる。 「何これ!?」 謎の事態にシャルが動揺した僅か一瞬を狙って、レイシャの風がアイを攫った。 「しまっ――アイちゃん!」 シャルが手を伸ばすが、眩い光がアイやユーティスそしてレイシャたち契徒を包み込んで刹那消え去った。 再び何もない空間に戻り、シャルとレストだけが取り残された。 「どういうこと? アイちゃんとそれに王様も……契徒たちも消えちゃったよ。気配すら――ない」 「わからない」 「――何が起きたんだ」 「しゃ……」 レストの言葉はそれ以上続かなかった。アイが消えた事実にシャルの感情が沈んでいったからだ。瞳から光が消える。近づきがたい雰囲気に、レストはどうしていいかわからなかった。不用意に声をかけようものなら瞬く間に心臓をクナイが貫きそうな――鋭い雰囲気だった。 「お前! ユーティスに何があった!」 誰も近づけさせない殺意の空間に割り込んできたのは、ユーティスと同類の雰囲気を持つ存在――ルーシャだった。 [*前] | [次#] |