零の旋律 | ナノ

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 ルーシャと出会うより前の時は遡る。氷室とアーティオとは別れて、ケイとレンカを探していたレストたちは思わぬ人物と再会を果たした。反射的に身体が震えるアイを守るようにシャルが一歩前に出る。手にはクナイが握られていた。レストも契術で氷を生み出す。臨戦体型に入った彼らとは違い、その人物は所持している羽と結晶が輝きを放つ杖を手にしながらも、それを向けることはせず契術を扱ったレストを一瞥しただけだった。荘厳という言葉が似合うような、けれど水のように澄んだ存在は何者にも染め上げることが出来ない透明感を放っている。幻想的な雰囲気はまるでこの世のものではないようだ――人間の姿をしながらも人間とは全く異なる存在精霊。その王ユーティス。
 その存在がレストたちの前に顕現していた。
 正確には既に存在としての形を見せていた――レストとシャル、アイが訪れた街に。

「――赤いゴージャスなの」

 ごくりと唾を飲み込みながらレストが呼ぶ。

「私の名前はユーティスだ。そのような名でよばれる筋合いはない」

 赤いゴージャスなの、と呼ばれるのが不本意なのだろう、精霊の王は訂正する。ユーティスだ、と。

「なんで此処に?」

 闘技場のある街エーテルに隣接する街メルガラ、徒歩五分で辿りつくという非常に近い街だった。
 隣町までの距離が此処まで短いのはこの世界では珍しいものだった。
 シャルが棘のある声でとう。本物の契徒狩りでもある精霊の王は、その実力だけで契徒を殺害することが出来る。当然契徒の――千愛の味方であるシャルにとっては例え精霊の王だろうが、敵だ。

「……そこの契徒がいるのは好都合だが、私の目的は別だ。別にお前を狙って意図的に姿を現したわけではない」

 契徒以外には傷つけたくないという意志がそこには現れていた。精霊の王の前では精霊術を行使することは出来ないが、類まれなる身体能力を有する暗殺者が相手では相手を無傷のまま勝利するのも聊か難しい。以前一緒にいた契徒<氷室>はおらず契約者だけいる現状も好ましくない。
 精霊の王にとっての敵は契徒であり、世界リティーエに住まう存在は等しく愛する存在なのだ。その存在をどうして傷つけたいと思うだろうか。

「別の目的?」

 アイが恐る恐る言葉をかける。

「……此処に契徒の組織が存在する。私はそれを始末しに来ただけだ」
「契徒の組織!?」

 アイが、精霊の王を見た時以上に震えた。シャルがアイの手を強く握り締める。

「千愛。僕が守るから大丈夫だよ」

 安心させるように呼ぶその名前は渾名ではなかった。

「あ……あぁ」
「お前は契徒でありながら契徒ではないのか?」

 その様子を精霊の王ユーティスは不思議そうに口を開く。アイは頷いた。

「成程。それなのに此方の世界にいるということは、契徒にとっては好まれない存在か」

 ユーティスは全てを承知しているとアイはその言葉だけで察した。
 だから、精霊の王として契徒を排除しているのだ。この世界を守るために。
 契徒は『異世界の侵略者』であり、排除することは即ちこの世界を守ると言うことだ。

「王様は全てをご存じってわけか」
「私が知らないでお前たちを排除するわけがないだろう。今回は見逃してやる。だから私の目の前から消えろ」

 ユーティスの温情とも取れる言葉に、レストとアイは素直に従おうとした。少なくとも、此処で精霊の王に逆らう必要はないからだ。
 だが、シャルは違った。

「すぐに消えるのはちょっと無理かな」
「え?」
「ちょっシャル!」

 驚くレストとアイを置いてシャルは言葉を続ける。

「精霊の王様は気付かない? 僕ら――囲まれているんだけど」

 シャルの瞳が、人懐っこい笑みから狂気をはらんだ暗殺者としての瞳へ変貌する。


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