零の旋律 | ナノ

V


 刃がレストの首を切り落とそうとする瞬間、レストを殺すはずの刃は氷でせき止められた。
 レストは拘束されているが辛うじて動く掌に針のように細い氷を作り、手首を縛っている縄を切る。自由になった手で口を塞いでいる布を取り、自身を拘束している処刑台を凍らせてから破壊する。凍らされた処刑台は衝撃によって脆く砕け散る。

「ど、どういうことだ!?」

 支配者の言葉とともに、驚きは市民へと広がる。

「あれは……」

 レイシャはその様子に僅かながら感情の色を現す。支配者の隣に座っていた青年が楽しそうに笑みを零した。

「不快だな」

 レストが自由になった口で最初に紡いだ言葉だ。レストの掌にはいつの間にか氷で作った剣が握られている。精霊術を詠唱した様子は一切ない。

「契約者だったか」

 青年が精霊術を詠唱した形跡がない答えを導く。余裕で大胆不敵の言葉が似合うだろう青年は頬杖をついたまま動く素振りを見せない。支配者が青年の言葉に反応を示す。

「あの若造が契約者だというのか!?」
「そう、恐らくは氷の固有能力を譲渡されているんだろ。じゃなきゃ、術の詠唱なしに術を扱ったことに対する説明がつかないし」
「……確かにそうか、それならば最初から口を塞いでいても無意味ということか」
「そゆこと」

 飄々と答える青年に支配者が不快感を示した様子はない。

「だが、ならば契徒の姿は見えないが?」
「別に一度契約をしてしまえば、四六時中、契徒と一緒にいる必要はないからね、でどうするの?」
「勿論、ならば私が殺すまでだ」

 自身も契約者である支配者は、自らの能力が上だと奢っている。支配者は重たい腰を上げ、レストの方へ向く。

「……そこにいる青年が契徒なんだろ?」
「そうだ、私の契徒だ。若造よ、一つ問う、お前の実力ならば最初から捕まることはなかったのではないか? それともまさか世直しでもしてやろうとはフザケタ偽善を持ち合わせているのか?」
「生憎、そんな心意気なんてないさ」
「ならば何故だ」
「ただ、俺が気に入らなかっただけだ。最初から全てを認めて何も思わない奴が、きにいらなかっただけだ」

 それは市民のことを示しているわけではないことは、支配者にも理解出来た。しかし、それが誰を指しているのかはわからない。


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