零の旋律 | ナノ

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「……アイに此処まで来いというのもあれですし降りましょうか」
「そうだな」

 アーティオが足を滑らせそのまま地面へ着地する。氷室も一人で浮遊している理由はないため下降する。

「どうだった?」
「逃げられた。……レスト。ケイは騎士団の特務部隊隊長だった。で、あのケイが思い人とかぬかしていた女はケイの部下だった」
「は!? 騎士団の隊長って――ケイエル・リストニア!?」
「そう本人は名乗っていたな」
「まじでか……」

 レストはあいたくちが塞がらなかった。ケイエル・リストニアとは元々の貴族出身で、最初から出世を約束されていたが、それでも周囲に驚愕をもたらした存在だった。他の追随を許さない圧倒的な実力で若さに似合わない速度で隊長の地位にまで上り詰めた人物だ。
 まさか、あの女を見かけたらくどくような人間がそうであるとは想定外だった。

「――まさか、氷室!」
「なんだ?」
「ほら、暴動が起きた街イティテェルの研究所にある霊石を氷室が手に入れようとした時になかったのってそのレンカってやつが奪ったとかじゃないのか?」
「成程……いや違う。けど間違いでもない」
「そうか、レンカを探していたケイはあの街では全く情報がないような感じだった。つまり、イティテェルの研究所の霊石を奪ったのはケイの仕業か」
「だろうな」

 あの時ケイの仕業だと全く気付かなかった自分を忌々しくて氷室は舌打ちした。
 霊石に近づいた時、妨害をするのは騎士団の存在だったのだ――レンカは例え裏切り者で騎士団から追われる立場にあろうが、騎士団であったことは変わらない。

「なんで、騎士団が霊石を?」

 アイが眉を顰める。少しずれた眼鏡の位置を指で元に戻す。

「わからない。それがわかれば苦労はしない」

 氷室の棘がある言葉に、アイは相変わらずだと肩を竦める。

「とにかく、ケイとレンカの二人を俺は探したい」
「ん、わかった。じゃあどうする〜?」

 呑気な声で一番に賛同したのはシャルだ。そのシャルの呑気な表情を見ていると、状況をわかっているのか、とレストは思わず呆れたくもなる。
 だが、暗殺者シャルドネ=シャルアが一緒に行動をしてくれるのはありがいたことでしかない。
 悔しいが、自分の力ではケイエル・リストニアには返り討ちにあうのがオチだ、とレストは実感している。氷室の力に実質的になれるのは何時もシャルである事実から目を逸らしたくなる。

「全員で探すよりも二手か、三手に別れて探しますか?」
「アーティオも手伝ってくれるのか?」

 氷室はてっきりアーティオだけは一人この場から離れるものだと思っていたから意外だった。

「えぇ。まぁどうせ予定もありませんし。俺が拒否したかったのは、闘技場であってそれ以外ではありませんよ」

 闘技場に何か嫌な想い出があるのだろうかと氷室は思ったが興味はないので追及はしない。

「三手……だと人数が少なくなるなというか一人になるだろ。二手でいい」
「わかりました。どういう風に?」
「くじ引きにでもする〜? あぁ。でも僕はアイちゃんとセットで宜しくね」
「わかったよ」

 なら、俺も氷室と――とレストはいいそうになって止めた。我儘をいって万が一にでも氷室が困った顔を見せることがあればいやだからだ。
 シャルが何処からか取り出した紙で簡単にくじ引きをした結果、氷室&アーティオ、レスト&シャル&アイの組み合わせになった。

「じゃあ、もし危ないと思ったら深追いはしないことですよ。シャル」
「大丈夫だよ。それに、リストニアと殺りあっても別に僕負ける気しないし」
「そういう問題ではありませんよ。それに、いくらシャルといっても無傷では済まないでしょう? ベルジュが怒るはめんどくさいので御免ですよ」

 肩を竦めるアーティオに、あははっとシャルは笑った。弟を溺愛しているベルジュだ。万が一シャルに何かあれば王国を敵に回すような行為を容易にやりかねない。そうなっとき止めるのは酷く大変なのでアーティオとしてはそのような事態は、シャル自らが回避してもらいたかった。

「肝に銘じておくよ!」

 余りにも軽々と言うので本当に肝に銘じたかは甚だ疑問だが、いつものことなのでアーティオはそれ以上何も言わなかった。それに、いざという時はアイが止めるだろうと判断している。戦闘面に関して役に立たない契徒ではあるが、シャルのストッパーにはなるだろう、それがアーティオの判断だ。


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