零の旋律 | ナノ

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「氷室。君の疑問の答えは簡単だ。レンカは国宝を盗み出した。俺はレンカを裏切り者として追う立場になったんだ。けれど、レンカの性格は俺が知っている。用心深いレンカは騎士団のリストニアが探していると知れば簡単に雲隠れするだろう。だから俺は素性を隠して各地でレンカの足取りを追っていたんだ。さぁ答えは終わりだ。契徒」

 最初は氷室と呼び、最後は契徒と呼んだ。それは道楽息子としてのケイと騎士団のケイエルとしての切り替えを言葉で表現したのだろう。
 ケイの両手に鎖鎌が握られる。ケイが踏み込んだ一歩は神速の如し。重力を持って防ぐ暇すら与えられなかった。胸を両断する攻撃に血飛沫があがる。

「ちっい――!」

 氷室は衝撃で吹き飛ばされる。例え、契約によって傷を回復する治癒力を有していようと治癒されるまでのタイムロスは存在する。
 その僅かな時間で、ケイは氷室に邪魔をされない時間を作り出したのだ。あくまで、氷室は邪魔ものだった。
 この――騎士団特務部隊隊長と裏切り者の場所に置いて。

「流石ね。でも、貴方が私をわかっているように、私は貴方をわかっている」

 レンカは予測していた。ケイは氷室を先に排除してから、自分を殺しにかかると。その刹那を利用して術を放った。周囲を白い液体が流れる。目くらまし程度の効果しかないが、逃走の時間を稼ぐにはそれで充分だった。
 氷室だけであれば排除しにかかったレンカだが、そこに嘗てのよく知る人物がいれば話は別だった。ケイの実力は誰よりもレンカが熟知していた。

「舞え、時の流れを横断する旋風」

 ケイが精霊術で白の液体を払い視界を良好にしたとき、レンカは逃走したあとだった。

「俺の考えを読んでいたか。氷室に攻撃するのと同時に、逃走するとはな」

 感心しながらも、ケイは笑みを浮かべたままだ。
 一度再会さえすれば足取りを追うのはそう難しくないからだ。
 氷室を一瞥することなくケイもまたレンカを追った。


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