第六話:本当の肩書 気配を全く感じさせず背後に現れた男。 「てめっ!? どうして!」 普段の飄々とした態度とは似ても似つかない、鋭利な刃物を纏っているようなケイに対して氷室は警戒する。 この男が普段、女好きの遊び人であったのは、ただの仮面なのか。見定めるように視線は鋭くなる。 暫く間、静寂が降りる。やがて、ケイが口を開く。 「どうしても何も“レンカ”の情報を入手したからね。だから俺はこの場にやってきただけさ」 「……貴方があちらこちらで私を探しているのは知っていたから、慎重に行動していたつもりだったのにねまさか再会してしまうとは思わなかったわ」 「何時までも逃げ切れるわけないだろう」 「私は何時までも逃げ続けるつもりだったわ」 レンカと呼ばれた彼女は肩を竦める。レンカは彼にだけは見つからないように隠密に行動していた。その結果数カ月物間雲隠れには成功していた。ただ、成功し続けられなかっただけだ。 「おい、待て。俺には話が見えないぞ。そもそも霊石は俺のだ勝手にお前らの物にするな」 「優勝したのは暗殺者じゃないか」 ケイはその状況を見ていたかのように冷笑した。 「まぁそれはいいとして。悪いけど氷室。どちらにしろ契徒に霊石を渡すわけにはいかないんだ。それはこの国のモノだ」 「――この女とお前の関係は?」 氷室の射抜くような視線を受け流す様は遊び人を装っていた頃の面影が垣間見えた。 「上司と部下」 あっさりと答えたケイの言葉に、レンカが僅かに表情を歪めた。だが、一瞬のことで瞬きをしていたケイはその表情に気付かない。 「上司……だと?」 「そう。改めて自己紹介をしようか氷室。俺は、ケイエル・リストニア、王国騎士団特務部隊隊長だ」 ケイは本当の肩書を名乗る。丁寧にお辞儀をする様は騎士の風格を漂わせていた。 「じゃあそこの盗人は」 「そう。レンカは副隊長だ」 まさしく上司と部下だ、と氷室は納得したと同時に拭いきれない疑問は存在した。騎士団の人間が何故、片方は盗人――しかも裏切り者で、片方は女好きを装って道楽息子として各地を旅していたのか。氷室の疑問を読みとったのか、ケイは苦笑した。人懐っこい笑みを浮かべる姿は、遊び人を装っていながらも――本質は女好きの道楽息子ではなくとも、その人柄全てが演技というわけではないようだ。 [*前] | [次#] |