零の旋律 | ナノ

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 チャンピオンとシャルが同時に入場する。連戦の勝者であるチャンピオンはシャルの三倍はありそうな体格の持ち主で、シャルが赤子にようにすら思える。
 それでも――レストや氷室、アイは心配していなかった。シャルだから、と安心していた。
 レストはシャルと戦った時手も足もでなかった。精霊の王が氷室を襲った時、シャルは臆せず立ち向かった。レイシャが契徒だと判明した時も、助けてくれた。そんなシャルの実力を彼らは信じている。暗殺者シャルドネ=シャルアを。
 二人が向い合せに並ぶ。チャンピオンもシャルも共に剣を所持していた。シャルの武器が紐付きクナイでないのは、武器を試したいと新しく購入したからだろう。
歓声が湧きあがる。その期待はチャンピオンが今日もまた連勝することを望むような歓声だった。
 盛り上がれば盛り上がる程、最後尾にいたアーティオは下らないと冷めていくが、それはアーティオが闘技場の空気を知っているだけで、初めてその歓喜に当てられたレストたちは他の観客程じゃないにしろ、高揚していた。

「始め!」

 審判の言葉と共に、チャンピオンが先手必勝と剣を振り下ろす。シャルはバックステップで回避する。様子見なのか、まだシャルから攻撃は仕掛けない。数度攻撃を回避したところでシャルが動いた。身軽な動作で背後へ周り剣を振り下ろす――

「――!?」

 シャルはすぐさま後方へ飛び抜く。剣を振り下ろしたシャルの攻撃を最初からそうなるとみ切っていたように、防がれたのだ。
 体格差がある以上、まともに力勝負をするのは分が悪いことをシャルはわかっている。
 だから、距離を取ったのだがそこへ飛び道具が飛来してきた。シャルが剣で弾くと仕込みがあり、弾いた飛び道具の中から小さな針が無数に飛び出てきた。
 シャルは捌ききれないと判断し、宙へ逃げる。すると、チャンピオンの剣が振り下ろされる。剣で防ごうとしたが、全てを防ぎきることは出来ず途中で剣が手から抜け地面へ転がる。防ぐ矛を失ったシャルは回避が間に合わず左腕を怪我する。
 地面へ着地するとシャルは物珍しそうに怪我をした腕を眺めた。他人の血を浴びることは数多あれど、自分の血を見るのは久しかったからだ。

「うわぁお」

 圧勝だと想定していたレストたちにとっては予想外の事態に驚愕したが――当の本人は面白くなってきた、と口を歪めた

「いいね、楽しめそうだ――」

 シャルは、落ちた剣を拾って再び構える。その口元の笑みを保ったままに。


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