第四話:闘技場 シャルに頼まれた買い物を終えた氷室とアイが戻ると、レストとシャルは談笑をしていた。 不吉な雰囲気を漂わせて会話を続けていた氷室とアイとは正反対に仲良しな雰囲気だ。 「あ、氷室にアイちゃんお帰り―! 僕のために買ってきてくれた?」 「あぁ、買ってきたよ。ほら」 氷室が品物を投げるとシャルは零さず受け取る。 「ちょっと氷室、食べ物を投げちゃ駄目じゃないか!」 「はいはい、悪かったな。レストにも買ってきたから食べな」 「うん。有難う、氷室」 氷室が選んだアイスをレストとシャルは美味しそうに頬張って食べる。その姿は傍から見ると仲良しの兄弟のようだ。 そして時間はシャルが出場する闘技場まで進む。 「じゃあ、僕言ってくるねー!」 遠足に行くような気軽さで手を振りながら一人選手控室にシャルは進んだ。その様子にレストは苦笑する。 「相変わらず自信満々だよな、シャルは」 「まぁ……その自信に見合うだけの実力があるからいいんじゃないのか」 氷室の言葉にレストはそうだな、と頷いた。暗殺者シャルドネ=シャルアはレストが羨むほどに強い。レストが手を伸ばしたところで届かない先の段階に彼は立っているのだ。 「るんるんるーん」 「おい、鼻歌まで歌っているぞ」 シャルの陽気な足取りと鼻歌に氷室は流石にため息をついた。こちらとしては霊石が頂ければそれで問題ないため、とやかくいうつもりはない。ましてや自信満々なのは有難いことではあるのだが、此処まで自信満々だと流石にツッコミを入れたくなった。 「まぁ……シャルだし」 そう言ってアイが纏めにならない纏めをした。 シャルを応援するため観客席へレストたちは向かう。 闘技場はドーム状になっており、観客席は上階に作られ、上から闘技を楽しめる構成になっていた。 試合はイベント期間中につき数時間に一回。数時間おきなのはチャンピオンの休息時間だ。 また、急きょ試合が延期される可能性もあった。イベントにおける現チャンピオンが勝利したはいいが大怪我を負い、治療に時間がかかった場合がそれに当たる。 けれど、今までの戦いは圧勝が殆どだったようで延期されることなくシャルとの対戦時間が近づいてきた。 「シャル――頑張れよ」 応援は不要だと思いながらもレストは自然と思いが言葉になって出てきた。 それは多分――シャルを応援したいという純粋な気持ちより――氷室に霊石を手に入れてほしいという思いだったのだろう。 シャルを応援せず優勝のことしか考えてない酷いやつだ、とレストは自覚しながらもそれでもレストにとって一番大切な相手はシャルではなく氷室なのだから仕方がないことだった。 最前列に座るレストたちは気がついていなかったが、最後尾にアーティオが立ち闘技場の様子を眺めていた。 「 此処は何年たっても何も変わらない――愚かしい程に不変だ」 [*前] | [次#] |