零の旋律 | ナノ

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 普通の観光客がこの処刑台を見たらその異常さに顔を顰めるだろう。けれど、街の人々にとってそれはもう見なれてしまった光景とかしている。そして見物席は二つ用意されていて、支配者に付き添うように現れたのは、支配者とは違い長身の成人男性。明るい茶髪に青い瞳、支配者と同様煌びやかな装飾品を纏っているが、支配者とは違いそれが似合っている。支配者と並ぶことで余計に対比されるが、しかし支配者がそれを気にする様子はなかった。何故なら彼がいることが、自分の栄華への道を究めることが出来ると信じているからだ。青年と支配者はともに見物席に座る。誰も妨害工作や反乱行為をしないと知っていながらも、警備は怠らない。

「……何度見ても下らない光景よね」

 支配者が耳にすればそのまま処刑台行きが確定するであろう言葉をレイシャは呟く。アエリエは静かに頷いた。

「人として、どうしてこのような悪逆な行為が出来るのでしょうか」
「そりゃあ、人だからでしょ。権利や力を持った人間は他人を服従させたがるもの。自分の力を誇示したくなるものでしょ、だから――よ」
「そうなのでしょうか」
「此処にいる支配された彼らだって、支配者と同じ力を持てば、同様の行為に出ないとは限らないわ。武力や財力とは、相手を支配させることが出来る力、なのだから。彼らは同じ力を持っても同様のことはしないと、力がないうちはそう言えても、力を持ってしてずっと同じことが言い続けられるなんて限らないわ。人は出来た生き物なんかじゃないのだから」
「……例え、そうだったとしても、全ての人が同じ行為を繰り返すとは思いたくはありませんね」
「詭弁で偽善的だけど、そう思いたいのもまた人の性よね」
「そうですね」
「さて、彼はどうするのかしら、どうにもしないで殺されることが一番この街のためにはなるのでしょうけど」

 レイシャの残酷な言葉にアエリエは何も言わなかった。
 レストが何か仕出かせば支配者もまた何かを仕出かす。そうなった時被害に遭うまた住民なのだと。
 支配者と青年が見物席につき数分後、憲兵が青年の口に布を巻いて手首を縛り連行してくる姿が見えた。
 口を塞いでいるのは万が一にも精霊術を詠唱される場合があったら困るからだ。逆にいえば口さえ塞いでしまえば精霊術を行使される心配はない。
精霊術、この世界で人が精霊の力を借りて術を行使することをそう呼ぶ。
精霊術を行使される際は、精霊との契約を結ぶ証として術を詠唱しなければならない。 それは、どれだけ熟練の精霊術師だろうと変わらない。
 レストは抵抗らしい抵抗を見せていない。この世界では既に三十年以上前に廃れた処刑方法であるギロチン台へレストは連れて行かれる。古い処刑を好み、相手に恐怖を陥れ、その光景を見せるけることで市民の反逆する心を無くすのが目的だ。
 ギロチン台へレストは拘束され、憲兵は手慣れた様子で処刑を実行しようとする。レストは横目で支配者が下品な笑みを浮かべているのが視界に入り、酷く不愉快だった。


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