零の旋律 | ナノ

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「えぇそうよ。でもリエルは別。リエルと私は同じだから。……『千愛』もいたから千愛くらいは捕まえようと思ったけれど、でもまぁ今回はいいわ。私に希望を抱かせてくれたレストへのお礼を込めて見逃して上げる。行くわよ」

 レイシャの言葉に反対をする契徒は誰一人としていなかった。
 レイシャが氷室達に背を向けて歩き出す。その最後にリエルもついていった。
 騒動に駆け付けた見物客たちは何が起こったのかと騒然とする。しかし、シャルが殺気を振りまくと一目散に見物客は逃げ去った。

「大丈夫? レスト」

 シャルが手を差し伸べてきたので、レストは掴んで起き上がる。鈍痛に顔を顰めるが、此処で倒れているわけにはいかない。

「大丈夫だ……けど」
「あのレイシャってこと君は知り合いだったの?」
「あぁ、まさか契徒だとは思わなかったよ」

 明らかに、愕然としているレストに対してシャルはふーんと顎に手を当てて思案する。
 あの契徒は明らかに千愛――アイのことを狙っていた。
 アイが契徒の中では特別な存在に位置する契徒だということは、アイから聞かずとも直感で理解している。
 何故ならば、アイと契約をしてくれと頼んできた人間が――契徒だったのだ。瀕死の契徒はそれでも必死に千愛を守ろうとしていた。
 契徒が何故、千愛を守ろうとしていたのか、その真意をシャルは知らない。その契徒は既に瀕死でシャルが引き受けると同時に息を引き取った。

「……さて、これは、僕が詳細を聞くべきなのかな? まー僕的にはどーでもいいと思っているんだけど、どーでもいいだけじゃ駄目なような気もするんだよねぇ」

 頭をかきながら問う。他人の事情に興味のないシャルらしい台詞だ。

「俺は知りたい。氷室、誤魔化さずに正直に俺に教えてくれないか」

 レストは真っ直ぐな迷いない瞳で氷室と向き合う。
 氷室はレストには知らなくていいことは知らせる必要がないと頑なに秘密にしてきた。
 だから本心では教えたくないと思っている。

「……俺はレストに不要なことは教えたくないと思っている。是は契徒の問題だから」
「契徒の問題でも俺は知りたい。だって――俺は氷室の契約者だ」

 真剣な瞳が真っ直ぐに氷室を向く。眩しい視線に氷室は目をそむけたくなるが、レストが望んだのならば――答えるべきなのかもしれないと、“自嘲”した。

「……わかった」
「じゃあ、とりあえずこの場から移動する? レストの怪我も命には別状ないだろうけど、浅い傷ってわけでもないし」
「シャルも怪我しているが大丈夫なのか?」

 レストが心配そうに問う。シャルの服は氷室やレストと比べれば軽傷とは言え、あちらこちら破れているし、僅かに出血している個所もみられる。

「ん? あー大丈夫大丈夫。こんなもの怪我にも入らないから」

 軽く答えるシャルは痛みを感じていないようにしか思えなかった。それほどまでに自然な動作なのだ。暗殺者だからだろうか、とレストは思う。
 一方の千愛は深刻な顔をしていた。
 自分の所在地がよりにもよってばれたくない相手にばれてしまった。
 
 レイシャ、否『澪紗』は他の契徒とは相手にするレベルが違った。


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