零の旋律 | ナノ

W


 だが、詮索は出来ないとアイはシャルの方へ向く。
 レイシャの無数の風を多少浴びたのか、服が所々破れている。僅かに腕から血を滴らせているが全く気にした素振りは表情から読み取れない。風を避けきれなかったのか、それとも避ける必要がないと判断したのか――恐らくは後者だろう。
 シャルの炎を纏ったクナイが無数に投げられるが、レイシャはそれを風の流れを変動させクナイの位置をずらす。対象から外れたクナイは地面にカツカツと刺さるに留まる。

「ん、どうしようかなぁっ――!」

 シャルは何かが来る、その気配を感じて回避行動を空中でとる。クルリと一回転しながらやや伏せた体制で地面に着地をすると、シャルが普通に着地をしていたら脳天に刺さっただろう緑の光を纏った矢が通り過ぎた。

「大丈夫? レイシャ」

 二の矢が放たれる。シャルは矢の軌道からやや距離を取って回避する。レイシャ、と名を呼びながら契徒たちの間を縫って現れたのは少年だった。

「大丈夫よ。リエル」

 リエル、その響きに氷室は驚愕する。レストを治療しながら視線をずらすと、そこにはアーティオの特徴通りの人物が弓を構えて立っていた。青緑色の髪は腰までの長さがあり、所々ビーズで止めているが、全体的には下ろしているといっても過言ではない髪型。茜色の帽子と、茜色を中心とした衣装を纏っている。それは契徒の服ではなくこの世界の民が着ている服装だ。

「リエル・ハーシェルだと」

 氷室の驚愕が言葉に漏れた。リエルはやや驚きながら知っていたの? と敵対心むき出しにしながら問う。

「情報屋って聞いていたから情報を利用しようと思ったんだよー」

 氷室に変わって、シャルが気軽な態度で答える。
 敵に対しても味方に対してもシャルの態度にはさしたる差はない。

「成程。けれど僕は貴方達に何かを教えるつもりはないですよ。レイシャの敵ならばね」
「レイシャとはどういう……」

 レストが横たわっている身体を起こして問う。傷は氷室の治療によって大分よくなっていた。痛むが、痛みに負けている場合ではない。知りたいことが、山ほどある。

「契約者と契徒の関係だよ。僕はレイシャと契約したから、ね」
「……」

 レストは言葉が出ない。

「契約か、レイシャ。お前は契約をするのを嫌がっていたんじゃないのか?」

 氷室が代わりに言葉を繋げると、レイシャは微笑した。


- 70 -


[*前] | [次#]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -