第二話:澪紗 +++ レストと氷室は情報屋リエル・ハーシェルを探して彷徨っていたが一向にそれらしき人物は見つからない。街の中心部から離れているこの場所は建物の数が少なく、道の両端には木々が並んでいた。 「一体どこにいるんだよ。リエル・ハーシェルは」 あまりの見つからなさに氷室は舌うちをする。探し始めてから五十分は経過した。そろそろ待ち合わせ場所の闘技場に向かう時間帯だ。 「まぁ焦る必要はないと思うけど、情報屋がいることは確かなんだし」 レストがそういった時、視界に映るものがあった。一瞬通り過ぎようとして映った。儚いとレストは思う。その姿は忘れられないものだ。水色の髪が靡く。白の服が風の流れに沿って揺れる。 「レイシャ!」 レストは思わず声をかける。嘗て出会った忘れられない少女だ。 名前を呼ばれた少女レイシャは此方を振り返る――と同時に氷室はレストの手を掴もうと手を伸ばした。 「レスト! そいつに近づくな!」 レイシャとレストの距離は二十メートル弱。レイシャの視界がレスト以外の者――氷室を映した。氷室が動くよりもレイシャが行動に移す方が刹那の差で早かった。 レイシャの掌が氷室の方に伸びる――途端、氷室は吹き飛ばされた。吹き飛ばされて木に激突する。衝撃で葉が舞う。 傷は一瞬で感知したが新品に買い替えたばかりの服が無残にも裂かれる。また買い直さなきゃ、と呑気なことを思う余裕はない。 氷室はレストがいるのも構わずに“力”を使おうとしたが、それより早くレイシャの二撃目が氷室を襲う。 「レイシャ!? 氷室、大丈夫か!」 何が起きているのかわからずにレストは困惑する。 確かなのは氷室が自分に何かを伝えようとしたことと、レイシャが氷室を攻撃したことだ。何か、目に見えない鋭利な刃で。 一体何が起きている。 「どういうことだよレイシャ!」 レストはとりあえず剣を抜き構えた。何かあっても咄嗟に対処できるように――しかし、レストの剣を握る手は僅かに震えている。レイシャに刃を向けたからだ。だがレイシャは冷静だった。レイシャが指を軽く跳ねると、レストを無数の風が襲う。 「いっ……がぁ!」 レストも後方へ飛ばされる。見えない刃に対して反応することすら出来ず、氷室に激突する。 「大丈夫か? レスト!」 氷室はぐったりとしているレストを心配する。契徒である氷室は“精霊の王様”クラスが相手でなければ余程のことがない限り殺さない圧倒的な治癒力を有しているが、契約者のレストは別だ。 契約者は治癒能力を得ない。 [*前] | [次#] |