第二話:契約者 裏路地を抜けて大通りへ進む。中心部へ進めば、そこには街の暮らしより豪華に造られた処刑台が姿を現す。人の命を奪う器具が中心部に堂々と存在感を現し、人々に恐怖を受け付けていた。 そこには人々が集まりだす。処刑を行う際、市民が集まるのは好奇心や野次馬からではない。支配者様に逆らった者の末路を見ましたと、従順である証を見せるためだ。 誰しもが殺されそうな人を助けようとはしない。皆、自分の命が大切なのだ。赤の他人を助けて自分の命を失うのなら、赤の他人を見捨てて自分の命を救う方を選ぶのは何も不思議なことではない。逆をする方が余程レイシャからすれば異常だった。 「……処刑時間まで一刻って所ね。此処で待機していましょう」 中心から三十メートル離れた場所でレイシャが足を止める。あまり近づき過ぎるのも問題だ。レイシャはともかくアエリエは支配者に目をつけられている。他人を助けるつもりは毛頭ないが、進んで殺される人間を増やすこともない。 「はい」 「所で、アエリエ」 「何でしょうか?」 「何をして支配者様に目を付けられたわけ?」 「……それは」 「言いたくないなら別に構わないけど」 「いえ、大丈夫です。あの時、支配者様の目に偶々止まりまして……私に屋敷で働けとおっしゃるものですから」 「成程。貴方綺麗だものね」 アエリエの艶やかな濡羽色の髪は鎖骨付近で切り揃えられている。焦げ茶色の瞳は大きく、愛らしさより、美人の表現が似合う造型をしている。赤を基準とした暖色系で纏められたローブだが、しかし勝気なイメージを相手に抱かせることなく、礼儀正しい落ち着いた女性の雰囲気を醸し出していた。 「それで、咄嗟に拒否してしまいまして……」 「まぁ、私もそれは御免だわ」 「ですよね」 アエリエの強張っていた表情が和らぐ。 一方レイシャはその場面を想像しているのか、やや顔が引きつっていた。現実を認め、現状を認めて諦めている彼女だが、しかしだからと言って嫌なことがないわけではない。だからこそ、彼女はトラブルを避ける。今日は運が悪かったと心底思っていた。 徐々に中心部には人だかりができ始める。大抵の市民は、また人が殺されると表情を暗くしながら、その一方で殺されるのが自分でなかったとホッとしている。明日は我が身、その言葉がこの街では嫌というほど浸透してしまっている。 予定の時刻になると支配者が姿を現す。贅沢な生活が身体にも反映されていて、体系はやや太っている。身長は男性にして低く百六十前半だろう。腰に剣を指しているが、豪華な剣と支配者の姿はどう見ても不釣り合いであった。是でもかというぐらい煌びやかな装飾品を纏っている。この街を支配して君臨しているのは自分だと、他人と差別化させるようにも思えた。 処刑台だというのに、支配者が通るからかレッドカーペットが敷かれている。それだけではない、処刑を良く見えるようにと後方には最高級の材質で造られただろう見物席まで用意している始末だ。 [*前] | [次#] |