第一話:エーデスの街 翌朝、服装が変わっている氷室に気がついたレストに服が血で汚れたから取り替えたと説明をするとそれだけですんなり納得をした。 単純で盲目的だとベルジュは思う。シャルがアイに寄せる感情とは全く別だ。 シャルはアイになついている、といった表現の方がふさわしいだろう。 「じゃあ、俺とアオは帰る」 「あーその前にアーティオ」 「なんです?」 赤いゴージャスなの――精霊の王ユーティスがいない今、この街にこれ以上留まる必要はないと岐路につこうとしたベルジュとアーティオだったが氷室がアーティオだけを止める。 「折角いるんだから間近まで霊石について案内してほしい」 「エーデスの闘技場にあるといったはずですが……まぁいいですよ。ベルジュ、それでは俺は氷室に案内してから戻りますね」 「わかった」 「では案内しますからついてきて下さい」 アーティオの言葉に先に帰るといったベルジュ以外が同行した。 「(この街も何も変わらないな……)」 アーティオは変わらない街並みに嫌気がさす。何も昔と変わらない。 闘技場という人と人を戦わせて“遊ぶ”下らない場所が残っているのも昔から変わらない。反吐が出そうだった。 「なんか活気にあふれている街だよな」 「そうですか?」 氷室の言葉にアーティオは苦笑する。 確かに活気にあふれてはいる。しかし――それは人の嫌な欲望が集まる場所だからだ。 「ん? 違うのか。人が集まっているんだから活気がある証拠だろ」 「それはそうですけどね、でもこの街を普通の活気ある街だとは思わない方がいいですよ」 「治安が悪いってことか?」 「治安はそこまで悪くないですよ。ただ治安が悪くないし活気があるのにはそれ相応の理由がある、というだけです」 「そうだ、情報屋的な存在は知っているか?」 「情報屋? それでしたらリエルに聞いてみたらどうですか? この街の中では腕のいい情報屋ですよ」 「リエル? どこにいる」 「此処まで着たら案内しますよ」 アーティオの案内で人気のない裏路地まで移動する。裏路地には簡単なテントで作られたおおよそ人が街で生活するのには相応しくない家があった。 「……人の気配がしませんね。リエル、入りますよ」 そう言って入口の布を持ち上げると、そこには簡単な机と書類が無数に散らばっているだけで人は一人もいなかった。埃が積もっていないことから長い間留守にしていたわけではないだろう。 「留守みたいですね」 「いつ戻ってくるかわかるか?」 「俺は情報屋じゃないんでわかりませんよ。そうですね、リエルの外見だけ教えておきましょう。茜色の帽子を被り、青緑色の髪は腰までの長髪。瞳は緑色で年は十六、身長はシャルと同じくらいですね、性別は男です、ただ少し中性的な外見ですね」 「ちっまた長髪かよ」 長髪の部分に氷室は舌うちをする。男で且つ長髪をみると氷室の鋏で切りたい衝動がやってくる。視線をちらりとレストへ移すとレストは急いでシャルの後に逃げた。 長髪も気に入らないが、シャルが安全地帯だと思われているのも聊か氷室にとっては気に入らない。 「そこに反応しないでください。まぁ兎に角出会ったら聞いてみればいいですよ。名前はリエル・ハーシェルです。この街ではそこそこ有名な情報屋ですので」 「わかった。じゃあ情報屋も見つからなかったことだし、闘技場とやらに行くか」 「そうですね」 闘技場までアーティオに案内をされる。闘技場は円形のドームのような形をしていて中心部は空いている。中心を覆うように観客席が階段状に形成されている場所だった。 全体を真っ白でまるで何かの色を映えさせるような構造が聊か不気味だ。 [*前] | [次#] |