零の旋律 | ナノ

V


「そうなのですか?」

 アーティオの視線はアイと氷室を交互に見据える。それは嘘を許さない無言の圧力だった。

「……あぁ。そうだよ。契徒と呼ばれる存在はこの世界の民じゃない。だからこそ、精霊の王様は嫌ってんだろ。自分たちの世界の秩序を乱す存在としてな。それは強ち間違いともいえないことだしな」
「異なる世界……何で氷室は秘密にしていたんだ?」
「話す必要がないと契徒たちの間では言われているんだよ。ただでさえ契約という証があるんだ、それ以上話さなくていいってのが暗黙のルールなんだよ。こいつだってシャルには何も言ってないんだろ?」
「あぁ。まぁ、シャルが驚いていなかった所を見ると、シャルは半ば予想していたみたいだけどな」
「ん? 僕。だって別にさーアイちゃんが異世界の人だろうが、何だろうが、どうでもいいし」

 さっぱりと割り切り気にした素振りに、今まで秘密にされていたことに対して傷ついた様子もシャルには一切なかった。それが、少しだけレストは羨ましかった。
 氷室から秘密にされていた、その事実がレストにとっては少しだけ傷ついたのだ。
 悲しかったのだ――信頼されていなかったのではないかと。

「……なら、俺と契約する前の契約者も知らなかったのか?」

 だから、女々しいとは思いつつも、氷室に聞いてしまった。

「あいつか? いや。知らないさ。そもそも俺が自分からそう言ったことを語ったことは今までないしな」
「そっか」

 その言葉に少しだけ安心してしまった自分自身に嫌気がさす。

「所で、ベルジュ=シャルア。何故お前はそんなに詳しい?」
「一々フルネームで呼ぶなよ。……そりゃ、お前らが暗黙のルールとしているのを、俺の契徒は破ったからだろ? 確認しなくてもわかることだ」
「……そうか」
「さて、俺はお前らに話してやることは話してやった。精霊の王様はこれからも契徒を殺し続けるぞ、契徒がこの世界に存在している限りはな。それはこの世界にとって『不都合』だからだ」

 ベルジュはそう言って自分の知っていることは全てだ、そう言わんばかりの顔で会話を打ち切った。後に残るのは微妙な沈黙。
 空気がやや思い契徒に対して

「精霊の王様に目をつけられるなんてなんか凄いねー」

 と、能天気なシャルの声がかけられる。それだけで場の空気はほぐれた。意図的にやっているのではないだろうが、実は意図的なのではないか、と疑ってしまうだけの微妙なさじ加減だった。
 その後は今までの話がなかったかのような、シャルのマイペースな会話が続き、それに他の面々が相槌をうった。
 今晩だけはベルジュとアーティオも同じ宿に泊まるようで、しばらくしたら受付にいって部屋を取っていた。
 氷室はベッドに横になりながら傷の治りについて考えていた。いくら精霊の王といえ、契徒の治癒能力を上回る攻撃が出来るのか――否、可能だろうという結論に至った。
 精霊の王であり、リティーエの王といっても過言ではない存在だ。世界の王を相手どったのに命があった方を幸運だと考えるべきだ。
 夜中、氷室は疲れたといって怱々に寝た。他の面々はチェスをして遊んでいたようだが、暫くすると消灯し、それぞれの部屋で睡眠を取った――


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