第九話:契徒の秘密 +++ ベルジュとアーティオは街エーデルに到着するとシャルが入口で待っていた。宿に氷室を運んで、今はレストとアイが傷の手当てをしているとのことだった。ベルジュとアーティオはその場に案内をしてもらう。 「ベルジュにアーティオ!?」 氷室はベッドに横になりながらも、突然の来訪者に驚きを隠せなかった。おどろいた拍子に動いてしまい、激痛が走る。腹部から流れる血は収まることを知らない。 「アオ」 「わかってますよ」 必死に包帯を巻こうとしているレストとアイの間に立ち、アーティオは癒しの精霊術を唱え始めた。 「アーティオさんは、治癒術を扱えるのか?」 レストは縋るような思いでシャルを見る。 「うん。アオは治癒術も使えるんだ。レストは使えないでしょ?」 「あぁ……助かります」 後半はアーティオに対してふかぶかと頭を下げた。正直にいえば氷室の怪我が治らなかった時、不安に襲われた。 もしも氷室が死んでしまったら自分はどうすればいいのか、全くわからなかったのだ。目の前が真っ暗になる気がした。 「……あの赤いのは何者だ。本物の契徒狩りだとシャルはいっていたが」 氷室はベッドに横になったまま、疑問を投げかける。リティーエの民と契約をした契徒を傷つけられる存在がいることを理解出来なかった。 「本物の契徒狩りだったら氷室に怪我を負わせた理由も納得できるから咄嗟にそう判断しただけで、僕は知らないよ。ってかさ契徒を怪我させただけじゃなくてさ、ぶっちゃけ精霊術も使えなかった」 「どういうことだ?」 「精霊術が無効化されたんだよ。具体的にいうとね、僕がクナイに火を纏わせようとしたら精霊がそれを拒否したように感じたんだ」 シャルは理解できないと首を傾げる。 「まぁ多分、あの赤いのについては兄さんが知っていると思うよ。兄さんがあの場に現れたのは僕が関係してじゃなくて、あの赤いのを追っていたんでしょ?」 「俺も知りたいですね。それに――俺やシャルに内緒にしていることがあるのでしょう?」 全員の視線がベルジュに向く。アオに関しては喋るまで追求を止めない、そんな視線だった。ベルジュはやや言いたくない気持ちを現すように舌うちしてから、渋々口を開いた。 「あの赤いゴージャスなのは……名前はユーティスって名乗ってたか。あれは、精霊だ」 「精霊!? 精霊は具現できないんじゃないのか」 レストは驚愕の声を上げる。精霊とは、この世界に存在するが、人の目には映らない存在。 ユーティスが精霊であるのならば、何故人の瞳にうつり、そして契徒を殺す力を有する。 「ただの精霊じゃない。あいつは、全ての精霊を統べる存在――精霊の王だ」 「せ、せ、精霊の王様!?」 レストの声が一段と上がる。 氷室は怪我が痛むのを忘れて起き上がろうとしてアーティオに無理矢理ベッドに押し戻された。 [*前] | [次#] |