第八話:本物の契徒狩り +++ 森を抜ければ次なる霊石がある街エーデスに到着する。 レストとシャル、アイが道中楽しそうに会話をする中、氷室は一人浮きながら考えごとをしていた。 「(霊石を後いくつ集めればいい? 精霊石は一体どこで手に入る……それに――千愛をどうする)」 考えごとは尽きない。 シャルの能天気な笑みを見る度に考え事をしている自分が馬鹿なように感じそうになるが、シャルは別なのだ。 「全く、お前ら観光じゃな……!」 氷室が、否、氷室よりも早くシャルが反応して振りかえる。手にはいつの間にかクナイが握られていた。少し遅れて氷室が振り返り、何事かとレストが剣を構えながら、アイが後方に下がるようにして振りかえる。 静寂、聖域、清涼な空気、一気にそこが神聖な場所にでもなったかのような清浄さが漂い出す。 幻想的な光が周囲を祝福するように踊りだし、木々が鈴のような音色を奏でて歓迎する。 淡き光を纏い、華やかで、全てを圧巻させる存在感を放ちながら、“それ”は現れた。 「な――」 言葉を忘れ去ったかのように目を見張る。 それは、人が作り出した造形とは思えないほどに整い美しい。否、それは人が作り出せる造形ではない。 全てを統べる“王”のような存在感が“それ”の周囲に生み出される。 ふわりと舞う赤紫の髪は、毛先へ行くほどに白い。真っ赤な瞳は宝石のように美しく、艶やかで陶器のような白い肌。深紅の衣装を身に纏い、白き羽根が彩る。 幻想的で、夢現のような存在。 手には、羽をモチーフにしたのだろう杖が握られている。杖の先端にある宝石は全ての穢れをしらないように澄んでいた。 氷室はその存在から発せられるオーラに嫌な予感しかしなかった。 咄嗟にレストがいても構わず“氷室の契術”を放とうとしたが、それよりも早く――“それ”の杖を持たぬ右手の指が動いた。指が弾くような動作をした。それだけで氷室は吹っ飛んだ。 「なっ――!」 氷室は木に激闘する。しかし、衝撃を受けたはずの木は微動だにせず、葉すらまき散らさない。 氷室はすぐさま身体を起こそうとするが、激痛で動けない。 「どういう……ことだ」 痛みの中心部を手で触れてみたら、手が真っ赤に染まった。それは絶対的な違和感。 「何故、治らない」 契徒はリティーエの民と契約している限り、半不死的な能力を有する。 そしてそれは、契約して渡した契術の量によって変わってくる。氷室は氷の能力を殆どレストに渡している。 だから――氷室の回復力は高く、怪我など一瞬で治癒するほどだった。 それなのに、この怪我は一切治癒をする見込みがない。 「一撃では仕留め切れなかったか。……まぁいいでしょう、次で仕留める」 淡々と“それ”は氷室へ止めを刺す刃を放とうとしたが、シャルとレストが氷室の前に立ちはだかる。“それ”が放った刃は途中で弾け消える。 「邪魔をするな。私はリティーエの民に用はない。用があるのは――契徒だけだ」 「どういうことだ!?」 「レスト! 多分こいつは“本物”の契徒狩りだよ。……僕が時間稼ぎしてあげるから、氷室を早く街まで運びな」 「なっ、じゃあシャルは!」 「というか、アイちゃんと氷室を連れて逃げて。君たちがいても足手まといだから」 「……わかった」 足手まといと言われればシャルの言葉に従うしかない。そして氷室の状態も心配だった。 レストとアイが両方から氷室の肩を担いで一目散に走り出す。 「逃げるか……逃がすわけにはいかない」 “それ”が指を氷室の方へ向けると、光の弾が生み出される。 「させないよ」 気軽な声でシャルがクナイで光の弾を弾く。別の方向へ弾きとんだ光の弾は木に直撃する寸前、淡い光を放ち消え去った。 [*前] | [次#] |