U 「どういう?」 「“契徒”っていうのはそもそもが、リティーエの民と契約を結ぶことを目的とした“組織”が名づけた名称だ。つまり、その組織に所属していなければ“契徒”ではないんだよ。正式には」 「成程」 「あんたがどうしてアイの存在に疑問を抱いたかはともかくとして、とにかく何者かと問われればこう答えるくらいだ――アイは、『千愛』は契徒にとって不都合な存在だとな」 「納得、いきました。霊石の存在を教えた対価としては吊り合いがとれる情報でした」 それ以上深く追求してこなかったのは、それが霊石のありかを教えたこととの天平がとれる範囲とアーティオが判断したからだ。 「場所がわかったのならこの地に用はない。俺たちは去る」 「そもそも、暗殺者一家に長居することはお勧めしませんよ」 「だな」 氷室はアーティオの自室を後にする。静かに扉が閉まった後、アーティオはこの場にいない氷室へ向けて視線を鋭くする。酷くそれは尖った鋭利な刃物のよう――。 「僕たちも行くよ〜!」 呑気な声で当然のように告げるシャルに、氷室は頭痛がした気がした。 レストに次の目的地は、アーティオから霊石があると言われた街エーデルだと告げた。すると当然のごとく傍にいたシャルが行くと言い出したのだ。 理由を氷室が問うと、シャルが実家に帰宅したのは霊石を見せるためであって、用事がすんだらすぐに出るつもりだったから、だそうだ。 氷室は断ったところで影からついてきそうな気がして、仕方なく――渋々承諾した。 「あははっ、渋々って感じだね」 渋々だったことを見抜かれていたのに、当の本人は全く気にした素振りを見せない。 器が大きいのか、それとも単にそう言った性格なのか。恐らくは後者であろうが、氷室はため息をついた。 「……シャル、いいのか」 アイがシャルに問いかける。内緒話でもない辺り、最早アイもシャルの言動には諦めているようだ。 「別にいいじゃーん。二人旅より四人旅の方が面白いしさ! 当分は仕事しなくても問題ないし」 「仕事って……暗殺か?」 レストが遠慮がちに問うと、アイに話しかけていた笑顔のままで 「うん、そだよ」 と軽く答えた。 あはは、とレストは乾いた笑いを洩らす。 レスト達がシャルア家を出た後、アーティオが入口の門へ立つと、そこには闇と一瞬紛う暗き髪が踊った。 「お帰りなさい。ベルジュ」 仕事で出ていたシャルア家当主ベルジュ=シャルアの姿があった。 「ただいま。シャルは?」 「氷室達について行きましたよ」 「そうか。そうだ、俺はこのまますぐ少し出かける」 「どちらへ?」 「見つけたんだよ――」 何を、とは追及しなかった。その口元に浮かべる妖艶で邪悪な微笑みが、追及することを拒んでいるようにアーティオには思えたからだ。 ベルジュは一旦、血に濡れた服を着替えるためだけに、室内へ足を踏み入れた。 [*前] | [次#] |