第七話:次なる霊石へ 翌朝、レストは熟睡から目覚めると、氷室とシャル、そしてアイが既に起床してシャルの部屋に集まっていた。 「(暗殺者の家で熟睡とか、大分俺神経図太くなったんだなぁ……)」 「レスト、おはよー」 「あぁ、おはよう」 「朝食持ってこさせるから、待っててね」 シャルは朝からハイテンションで廊下に出て行った。シャルがいなくなったところで氷室はレストに霊石を見せる。レストとアイは目を丸くした。しかしアイの方はすぐにシャルが上げたのだと合点が行った。そうでなければシャルア家から霊石を奪えるはずがないし、そもそも自分がいる前で霊石を堂々と見せびらかすような行動をするはずがない。 「え、ちょ氷室これどうしたんだ!?」 「シャルから貰った」 「良かったじゃん」 レストの方は氷室の言葉に一片の疑いも抱いていないのだろう、素直に信じた。 尤も氷室とてシャルから貰ったに関しては嘘をついていない。肝心なことを何一つ告げていないだけだ。 「此処は要もなくなったし、朝飯を食べたら次へ行こう」 「わかった」 レストが頷くと、氷室はアイの方へ視線をずらす。 「他に霊石や精霊石の噂を知らないか?」 「契徒である俺が、霊石だとか精霊石について詳しいと思っているのか? 俺よりシャル……いや、アオとかに聞いた方が詳しいと思うぞ」 「アーティオか……ちょっと聞いてくるからレストはそこで待っていてくれ」 「え? 俺も……」 「アイも多少は知っていることもあるだろうから、アイから話を聞いておいて欲しいんだ。頼んだ」 「わかった」 言い方を変えればレストは素直に此処へ残ることを選んだ。氷室にとって自分が霊石を求めている目的をレストへは知らせたくなかった。だから知らせてしまったアーティオが万が一その話を振ってくるのは都合が悪いのだ。 氷室は偶々すれ違った執事にアーティオの場所を聞くと礼儀正しい且つ、感情を意図的に隠しているかのような無表情で場所を親切に教えてくれた。 アーティオの自室の前でそのままドアノブを回そうとして――敵対者だと判断されたら困ると判断し、ノックしてから中に足を踏み入れた。 「返事くらい待ったらどうですか」 やや呆れ声でアーティオは背後を振り返ることなく言葉をかける。丁度着替えている途中だったのろう、薄着をきているアーティオの隣には上着が置いてあった。上着を手に取り、それを羽織ボタンを止めてからアーティオは氷室の方を振り返った。 「何用ですか?」 口調は丁寧で温厚的な雰囲気を見せるアーティオだが、昨日出会ってしまってからは氷室にとってアーティオとは温厚な存在には見えなかった。 「他の霊石や精霊石の存在を知っているか?」 「……仮に知っていたとしても貴方に教えてあげる筋合いはないと思いますが?」 「そうだったとしても俺は知りたいだけだ」 「随分と我儘ですね。わかりました。では交換条件です、俺は霊石のありかを教えましょう。その代わり貴方も俺の質問に答える、どうですか? もちろん誤魔化しや嘘はなしですよ」 「わかった。但し、お前がしてくる質問が俺の知らない内容だった場合は質問内容を変更してもらうぞ」 「構いません。では、霊石の存在を教えましょう。この街から二日の所にある街“エーデス”にある闘技場に霊石があります」 「確実か?」 あっさりと他の霊石の存在を知ったことに、氷室は驚く。 「えぇ。俺が仕事で訪れた時にはまだ残っていましたから」 「闘技場とは?」 「人間同士が自分の力量を高める場所ですよ――今は」 「わかった。そっちの質問は」 アーティオは迷うそぶりなく、その笑顔のままに質問した。 「アイは何者ですか?」 「……アイは契徒であって、“契徒”と呼ばれる存在じゃない」 本人のいない場面で本人の秘密を暴くことに氷室は抵抗がない。 [*前] | [次#] |