零の旋律 | ナノ

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「後者だ」
「そうですか。シャル、判断は貴方に任せますよ」
「んー僕は別にあげても構わないよ? だって霊石は僕らに必要なものじゃないしね」

 シャルは霊石の前に近づいて無遠慮にそれを硝子ケースから取り出し、氷室に投げる。
 求めるのならば、あげればいい。
 それが――シャルアを脅かすものでない限り、それがシャルアの暗殺者稼業に反する裏切り行為でもない限り、それが依頼を失敗させるための手段でない限り。

「……サンキュ」

 本当にいいのか? そう思わず欲しいと言いながらも言いそうになった氷室だが、その言葉は押し込めてお礼の言葉を述べた。
 手にあるひんやりとした触感は霊石が掌にある証拠。
 霊石を求めてレストと旅を初めて手に入れた初めての霊石だった。
 精霊石には及ばないものの圧倒的存在感と、神秘的で幻想的な空気を放つそれに思わず酔いしれる。

「アオ、兄さんには僕が霊石を上げたって伝えといて」
「伝えなくても霊石がなければ、シャルが上げたってことくらい推測がつくでしょう。俺があげるはずないんだから」
「まっねー」
「それにシャルが上げたということなら、ベルジュは何もいいませんよ。ベルジュは貴方に甘いんですから」
「あはは」

 盗むことが可能、そんな予想は最初から二人には存在していない。
 和やかに会話をする、そんな異質な空気に氷室は顔を引き攣る。

「さて、もう夜遅いしいもう寝ようよ」
「あ、あぁ」
「じゃ、いこいこ」
「ちょっと待て、俺は一人で歩けるぞ」

 シャルは氷室の腕を半ば無理やり引っ張って歩き始めた。
 二人がいなくなってもまだアーティオはその場から動かずに霊石が入っていた硝子ケースを眺める。

「(霊石は契徒へ精霊術を扱える可能性を与えるもの……そもそも、精霊は何故死ぬのでしょうか……精霊は転生を繰り返すのでしたら化石となることはないはず、なのに。それはひょっとして精霊は死んで霊石となるのではなく――殺して霊石となるのでしょうか)」

 ――それが本当であれば
 アーティオはそこまで推測を立てた所で硝子ケースの前を後にする。


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