零の旋律 | ナノ

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「僕らシャルアから君が何かを仕出かすことは出来ない。だったら気にする必要はないでしょ」
「……シャル、霊石をくれ」
「どうして?」
「お前が言ったんだ、命令系統はベルジュの方が上だが、それに逆らえるのはお前やアオくらいだって。ならシャルに言う。霊石を俺にくれ」
「あはははは、そう来る? 普通」
「おかしいですね」

 シャルとアーティオはほぼ同時に笑いだした。発想を転換してそう来るとは予想していなかったのだ。

「そこまでして霊石が欲しいとは、理由はなんですか?」

 アーティオの問いと疑問、それはシャルも同様だろう。氷室は腹をくくった。アイ――千愛には詮索するなといって欲しいからだ、と答えた。しかしそれだけを告げた所で、アーティオやシャルが納得してくれるはずもない。
 ――もしも、霊石が手に入る可能性があるなら、語る理由は十分か

「教える。その代わり――お前とアオ以外は席を外してもらいたい」
「わかりました。下がっていいですよ」

 アーティオが合図すると、すっと今まで気配を出していた者たちは一斉にその場から姿をくらました。

「契徒は精霊術を扱うことが出来ないからだ、それが理由だ」

 氷室は本当の目的を語る。
 契徒が精霊術を扱うことが出来ない。それは周知の事実だ。

「ですが、それがな……もしかして、可能なのですか? 霊石であれば」
「可能性が高い、といったところだ。確実に出来る保証はないんだけどな。俺たちは精霊術を扱えない。だが精霊が死に化石となった霊石であれば、霊石を媒体として精霊術を行使出来る可能性があるんだ。霊石よりも位が上の精霊石ならばほぼ確実に術を扱えるだろう。俺はその為に霊石を探している」

 それが氷室の目的。レストにすら知らせていない目的だった。

「成程、本来精霊に死は存在しない。けれど、何故か精霊が死んだ時に出来る石――霊石はその存在を視覚でとらえられるものであり、精霊の力は石に宿っていると考えるのならば、例え精霊術が扱えないものでもそれを行使することは不可能ではないですね」

 アーティオの言葉に氷室は頷く。だからこそ、精霊術を扱うために霊石が必要だったのだ。

「……しかし、貴方達には契術という固有の能力があるではありませんか、何故精霊術を求めるのです?」
「契術が固有能力であり、その能力は生まれ持って“決まってしまっている”からだ。第一それを言うならお前らリティーエの民だって求めているだろ。精霊術という力を扱えるのに、契術を求めて契徒と契約を結ぶんだ。此方が契術を持っていても精霊術を求めることに不思議はない」
「言われれば、それまでですね」
「そういうことだ」
「なら、貴方は精霊術を扱いたいのですか?」
「は? だから」
「霊石は精霊術を行使出来る可能性がある、そのために霊石を探しているといいましたよね、けど、一言も言っていませんよ? 貴方自身が精霊術を扱いたいとは。求めているのは貴方が精霊術を扱いたいからですか? それとも――誰かに精霊術を扱って欲しくないからですか」

 射抜くような視線、そこで初めて氷室は悪寒が迸った。ベルジュの圧力とは違う、シャルの無邪気とも違う、静かな、けれど鋭い視線を放つアーティオに氷室は目的を語ったことを後悔した。これならば、理由を説明せずに霊石を求めず、シャルに一言告げるだけにすれば良かったのだ。
 アーティオの鋭い指摘に氷室は選択肢を間違えたと自覚した。
 この青年もまた、油断していいような相手ではなかったのだ。


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