零の旋律 | ナノ

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「ならベルジュに直接霊石を寄こせといったら寄こしてくれるとでも?」
「無理でしょうね。ベルジュは契徒を嫌っていますから。契徒に渡す道理はないといって一刀両断にするのがオチでしょう」
「結局選択肢は一つしかねぇじゃねぇか。力づくで奪う。それだけだろう?」
「仕方ありませんねぇ。月光が照らすほの淡き光」

 アーティオを嘆息しながら精霊術を詠唱する。途端構える氷室だったが、その精霊術は暗かった周囲を明るくするランプの役割をおっているだけであった。

「ではお帰り願いましょうか」

 明るくなった視界の中で、にっこりとほほ笑むアーティオの両手には紐が握られているのがわかった。

「望むところだ」

 ベルジュがいない今しかない、氷室はそう判断した。
 しかし一向にアーティオが攻撃してくることはなかった。氷室が顔を顰めた時、首筋にひんやりと何かがあたった。

「何アオに手を出そうとしているの?」

 ひんやりと背筋を凍らせるような声。声の主は誰だ――明白だ。ベルジュの弟であるシャルだ。

「氷室って見た目に寄らず好戦的だねー」

 へらへらと笑いながらシャルはすぐに氷室の首筋に当てていたもの――クナイを外し、掌で回転させながら遊んでいた。

「シャル、どうしたのですか?」
「そうだねぇ、別に何でもないっちゃないんだけど――。僕的にはさ此処で氷室に問題行動を起こして貰いたくなかったってくらいかな?」

 シャルがくすくすと笑うと、それを合図のように次から次へと人が湧いて出てきた。氷室は思わず顔を歪める。
 ――気がつかなかった。

「兄さんのことだからきっと何かしらの対策はしてあるだろうなーとは思っていたし。氷室が霊石を奪うのに行動するなら夜、だと思ったから。でもさ氷室は知らないの? 暗殺者ったら普通は夜に動くんだけどね。まぁ僕は違うけど」
「……ずっと見張られていたのか?」
「うん? そうだよ。だって氷室が霊石欲しい―って表情しているのは一目瞭然だったし。大方盗んだらレストを連れて逃げるつもりだったんだろうけどさ、シャルア家がそんな盗みに入られるような甘い作りになっているわけないじゃない。悪いけど、氷室じゃ此処を突破することは叶わないよ」
「……お前は俺をどうするつもりだ?」

 氷室にとっては例えばれても実力行使という最終手段が残っていた。だからこそあまり慌てることはなかった。

「別に? 僕はどっちかてーと殺されて欲しくないと思ったから止めに来ただけだし。今はまだ僕の客人って扱いだけど、霊石を盗んだら途端にベルジュ兄さんにあだなすものとして殺されるからね。あ――契徒は半不死なんだっけ? じゃあ捕えられて拷問でもされるだけでしょ」

 さらりと物騒なことを述べるシャルに、改めてシャルも例外なく暗殺者であることを氷室は実感した。

「……」
「で、どうするの氷室。僕と一緒に客人のままでいるか、それとも兄さんの敵に回るか。命令系統は兄さんの方が上だから、兄さんの敵という肩書が優先されるからね? それに逆らえるのは僕やアオくらいなものだよ。それに言っとくけど、兄さんは強いよ? 君が兄さんと初対面した時強硬手段に出なかったのは冷静な判断だったね」
「お前は何故、俺がこういった行動をすることに最初から気付いていながら、そんなことを気にしなかったんだ?」
「え、だって別に気にするようなことじゃないでしょ?」

 首を傾げて不思議がるシャルに、シャルはこういった性格だと知りながらも納得が出来なかった。
 その真意がわからない、その心がわからない。無邪気で残酷な性格を形成しているのは、果たして暗殺者という実力からなるものなのか、判断はつかなかった。


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