V シャルがレストには勝てないと負けを認めたころ、シャルは思い出したように聞いてきた。 「ねぇ、今日はどうするの? うちに泊る?」 「え……」 レストは横目で氷室を見ると氷室も同様に悩んでいたが、やがて頷いた。 「お言葉に甘えよう(チャンスが増えるかもしれないしな……)」 「わーい! じゃあ、部屋用意するねー。あ、でも折角だから僕とレスト、氷室とアイちゃんの組み合わせでいいかな?」 「別に構わないが」 「じゃあ、そうしようー」 シャルはクルリと一回転してから、それを執事に伝えるためだろう部屋を後にした。 「……氷室」 「折角だ、泊ろうぜ。暗殺者の家に宿泊出来るチャンスなんてないぞ」 「一生廻って来なくても構わないだろう」 「シャルと一緒なんだ、問題ないだろう」 「まーな」 意図してシャルがそうしたのか真意は不明だが、それでも――同室であるのがシャルであるのは心強かった。いくらシャルの“友人”として此処にいたとしても暗殺者の家、それだけで不安になることは普通だ。自分たちをシャルの“友人”として敵意を持たれる可能性は大いにある。 食事はどうする? と戻ってきたシャルに問われたので、シャルの自室で食べたいとレストは即答した。 氷室がシャルア家に泊ることにしたのは、あの時はベルジュに邪魔をされたが、もしかしたら夜になればチャンスが再び廻って来るのではないかと考えたからだ。 霊石を盗んだらレストを迎えに行き。窓から飛んで逃げればいい。そう判断した。 アイは起きていたが、特に何も言わなかった。もとよりアイは氷室がシャルア家の霊石をどうこう出来るとは微塵も考えていない。だから止める必要もなかった。第一、止めようと思ったところで戦闘行為が苦手なアイでは止めることすら叶わないことを自覚していた。 ――氷室の、あの力は一体何だ。そもそも、“氷”は…… 深夜で寝静まっていることもあり、灯はなく廊下は暗かった。氷室は暗い中、足音を経てないために浮いて移動していた。これで物音のせいで誰かが目覚めることはない。 灯りがない中の移動は大変だが。夜目に慣れてくればどうってことはなかった。所々は月明かりが照らしてくれて明るい。 もう少しで霊石がある場所に辿り着く、そう思った時人影が見えた。氷室は慌てて廊下の角に隠れる。 「出てきたらどうですか? 氷室さんでしたっけ」 しかし相手にはその程度の行動お見通しだったようで、何も動じずに呼びかけてきた。氷室は隠れても無意味だと理解し、その人物の前に姿を現す。 シャルでもベルジュでもない。それ故に安心していた、というのもある。物腰の大人しそうな青髪の青年だった。暗殺者一家にいる人物にしては聊か不自然にも思えた。 「あんたは」 「俺はアーティオと申します。アオと呼んで下さい。さて、ベルジュは今仕事で家を離れているんですよ」 それは都合がいい、氷室は声に出さずに笑った。 「一つ伺っておきましょうと思いまして。貴方は何故、霊石を狙うのですか?」 「欲しいからだ」 「それは理由になっていないような……まぁいいでしょう。ベルジュも霊石に拘りがあるわけえはないですから、飾っているだけといっていました。しかし、是はベルジュの持ち物です。貴方に盗人の真似をされては困ります。お引き取り願いますか」 意思の強い瞳に、それでも氷室が怯むことはなかった。 [*前] | [次#] |